こんにちは。愛知県立旭陵高校/早稲田大学大学院の加藤圭太です。
前回は「対面指導デザイン:反転授業を手がかりに」をテーマにお話をさせていただきました。
第6回(最終回)の今回は,「協働学習への挑戦と心理的安全性」がテーマです。
今回の内容は,加藤・森田(2025a)と加藤ほか(印刷中)に基づくものとなります。
現代における協働学習(Collaborative Learning)の重要性は,OECDや文部科学省の資料でも国内外で度々強調されています。
実際に,「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」(文部科学省, 2021)が重要だと示されてきました。
ここまでに,第3回や第4回で紹介させていただいたように,通信制高校では個別最適な学びのニーズが高く,その実践も行われてきました。
一方で,協働的な学びに関しては,通信制高校の制度や生徒の特徴が要因となり,実践が十分に推進されてこなかった経緯があります。
通信制高校は,必要な登校日数の少なさから生徒間に面識がないことが多く,学力の個人差の大きさからグループの中で取り残される生徒が生じるリスクも高いといえます。
このような場合における協働学習は,参加者に脅迫感やストレスを与えることがあることが指摘されています(Miyake & Kirschner, 2014/2016)。
さらに,通信制高校への入学動機として対人関係困難を挙げた生徒が半数を超えることから(富士通総研, 2024),協働学習の実践がこうした生徒の心理的負荷をさらに高めてしまう要因となりかねません。
こうした背景から,通信制高校の中には「面接指導中に生徒を指名して発言させることは絶対にしない」という方針を掲げる学校も存在します(土岐, 2023)。
この方針の裏には「不登校経験者でやっとの思いで来ている生徒が,指名することで学校に来られなくなったり,とても難しい生徒が命を落としたりするようなことがあってはいけない」という生徒の対人関係困難への慎重な配慮があります(土岐, 2023)。
その結果,対話や協働を伴う学習活動が避けられ,講義中心の一斉指導形式の面接指導が多くなっているのが現状です(土岐, 2014; 2023)。
協働学習の重要性や意義を鑑みると,対人関係困難を抱える生徒が数多く在籍する通信制高校においても協働学習の実践を充実させていくことが求められます。
通信制高校の生徒の中にも,他者と関わりを求める潜在的なニーズが存在しており,対人関係困難を抱えるからこそ,その困難を克服し,社会性を育むための学習機会を保障していくことが重要です(加藤・森田, 2025b)。
生徒の対人関係困難に配慮した協働学習デザインを検討するための理論的枠組みとして,心理的安全性(Psychological Safety)が挙げられます。
ここからは,通信制高校における心理的安全性を確保した協働学習の実践事例を2つ紹介させていただきます。
1 屋久島おおぞら高校の渡邉先生の実践事例(渡邉, 2023)
屋久島おおぞら高校では,屋久島での集中スクーリングの際に,心理的安全性を確保するための様々な工夫が行われています。
その中でも特徴的なのが,「アイスブレイクのための自己紹介ワーク」と「グランドルールの作成ワーク」です。
週5日教室で生徒同士が顔を合わせる全日制高校とは異なり,通信制高校では生徒間に面識がないことが想定されます。
こうした状況では,アイスブレイクとして自己紹介ワークを実施することで,生徒がお互いのことを知ることができ,話しやすい環境をつくることができます。
些細なことに思われるかもしれませんが,こうした細やかな配慮が通信制高校における協働学習を実践する上で重要になります。
また,屋久島おおぞら高校では,話し合いのためのグランドルールの作成と共有も行われていました。
そして人型の内側には、一人ひとりが考えた「グループのメンバーとコミュニケーションをとる上で大切にしたいこと、積極的に行いたいこと」を、外側には「されたら嫌なこと」をそれぞれ記入します。
ここでは,生徒の中にあるニーズを丁寧に拾い上げ,生徒達自身の手によってグランドルールの作成が行われています。
そして,この成果物を活動中に目に入る場所に掲示しておくことで,「みんなで作ったルールを守れているか?」の確認を常にすることができ,心理的安全性をより確保することができます。
2 加藤の実践事例(加藤・森田, 2025a)
次に,私自身の実践事例を紹介させていただきます。
先程の屋久島おおぞら高校の渡邉先生の実践事例を参考に,導入で「自己紹介ビンゴ」と「グランドルールビンゴ」を実施しました。
また,先行研究で心理的安全性の面で効果が示されているゲーム型問題の採用(Parker & Plooy, 2021)も行いました。
具体的には,「二次関数大富豪」と「二次関数かるた」です。 この2つのゲームを通して,「二次関数のグラフがかけるようになる」ことを学習目標として設定しました。
カードゲームのようなアナログのゲームを行うことで,生徒はゲームの中に入り込む(没入する)ことができ,カードという媒介物をはさむことから,生徒間の自然な会話や協働が促進されている印象がありました。
今回紹介させていただいた以外にも,心理的安全性を確保するための工夫は様々なものが存在します。
こうした工夫を実践の中に盛り込むことで,通信制高校における協働学習に,先生方も生徒のみなさんも挑戦していけるようになったら嬉しく思います。
最後まで,そして最終回まで,お読みいただき,本当にありがとうございました!
【参考文献】
- Edmondson, A. (1999): Psychological safety and learning behavior in work teams, Administrative science quarterly, 44, 2, 350-383.
- 富士通総研 (2024): 高等学校における教育の質確保への対応のための調査研究:定時制・通信制の課程を置く高等学校について(調査報告書), https://www.mext.go.jp/content/20241007-mxt_koukou02-100002270_01.pdf
- 加藤圭太, 森田裕介 (2025a) 高校数学の協働学習における心理的安全性を確保した授業デザインの検討. 日本科学教育学会研究会研究報告, 40(2), 33-38.
- 加藤圭太, 森田裕介 (2025b) 通信制高校の数学教師が必要性を認識する専門的知識の一検討―フォーカス・グループによるデータ収集とTPACKフレームワークを用いた質的データ分析を通して―, 科学教育研究, 49(4), 345-362.
- 加藤圭太, 澁川幸加, 仲谷佳恵, 森田裕介 (印刷中) 対人関係困難を抱える生徒を対象とした心理的安全性を確保した協働学習デザインの検討―公立通信制高校の積極的な実践者へのインタビュー調査を通して―, 日本通信教育学会 研究集録, 令和7年度, XX-XX.
- Miyake, N., Kirschner, P. A. (2014): The Social and Interactive Dimensions of Collaborative Learning, Sawyer, R. K. (Eds), The Cambridge Handbook of the Learning Sciences Second Edition, Cambridge University Presss, 418-438. 益川弘如 (訳) (2016) 協調学習の社会的次元と相互作用的次元, 大島純ほか3名 (監訳), 学習科学ハンドブック[第二版]第2巻, 北大路書房, 147-163.
- 文部科学省 (2021) 学習指導要領の趣旨の実現に向けた個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に関する参考資料, https://www.mext.go.jp/content/210330-mxt_kyoiku01-000013731_09.pdf
- 渡邉匠 (2023): 生徒一人ひとりがありのままでいられる場づくりを!心理的に安全な雰囲気をつくるために、教員ができること, https://www.sensei-no-gakkou.com/article/sp0040/
【バックナンバー】
【#1】通信制のイマとココから 対面指導と自学自習の「逆転」
【#2】通信制のイマとココから 自学自習支援:「学習材」の重要性と実践紹介
【#3】通信制のイマとココから 面接指導における個に応じた指導の必要性
【#4】通信制のイマとココから 面接指導における個に応じた指導の実践紹介
【#5】通信制のイマとココから 対面指導デザイン:反転授業を手がかりに

愛知教育大学を卒業後,県立高校で数学教師としてキャリアをスタート。当時はサッカー指導に没頭し,「教えることは,自分でプレーするよりも何倍も難しい…」と頭を抱える日々を過ごしていました。 その後,想定外の異動で現在の愛知県立旭陵高校(通信制)へ。そこで出会った「通信教育」という仕組みの持つ大きな可能性に魅了され,2020年には熊本大学大学院教授システム学専攻(フルオンラインの社会人大学院)へ入学。
現在は,早稲田大学大学院の博士課程で通信制高校の研究を継続しています。近い将来の夢は,100kmウルトラマラソンの完走と,本場フィンランドのサウナに入ることです。
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