特集記事(高校)

高校

2026.03.19

【#3】通信制のイマとココから 面接指導における個に応じた指導の必要性

 こんにちは。愛知県立旭陵高校/早稲田大学大学院の加藤圭太です。
 第3回の今回は,「面接指導における個に応じた指導(Personalized Instruction)の必要性」がテーマです。(※ 実践紹介は次回に変更させていただきます。)

 前回は通信制高校において,主(メイン)となる自学自習の支援について,通信制高校では学習材の視点が重要になるというお話をさせていただきました。
 今回は,従(サブ)となる面接指導に焦点を当てて,個に応じた指導についてお話させていただきます。

 通信制高校の面接指導は,全日制・定時制(以下,通学制)高校の「授業」とは異なり,個に応じた指導の徹底を図ることが重要であると示されています(文部科学省, 2023)。
 「個に応じた学習(Personalized Learning)」は,学習のペースや指導方法が学習者一人ひとりのニーズに合わせて最適化された教授(instruction)と定義されます(U.S. Department of Education, 2017)。
 本稿では,これを教師の視点から捉えたものを「個に応じた指導(Personalized Instruction)」と定義します。
※ 文部科学省(2021)の定義では,「学習者視点:個別最適な学び(指導の個別化+学習の個性化)=教師視点:個に応じた指導」となります。

【#3】通信制のイマとココから 面接指導における個に応じた指導の必要性01

 この理由として,通信制高校には学力と学習進度の「二重の個人差」が存在し,それらの個人差に対応するためであると考えられます(加藤・森田, 2025)。

 通信制高校には,小学校からの継続的な不登校で算数の学習内容が定着していない生徒から,県内トップの進学校から転入学した生徒まで,非常に幅広い学力層の生徒が在籍しています。
 多くの通信制高校では入試で学力試験を課さないため,こうした学力の個人差が生まれやすくなります。

 また,通信制高校を含む高校生の遠隔教育では,「先延ばし」が大きな問題となります(Tiboron et al., 2021)。
 こつこつレポートに取り組む生徒もいれば,最終の締切間際になって必死に取り組む(力を発揮する)生徒もいます。
 自学自習が基本のこうした状況では,面接指導を実施する際に「二次関数に取り組んでいる生徒がいる一方で,展開や因数分解に取り組んでいる生徒もいる」といった学習進度の個人差が立ち現れます(加藤・森田, 2025)。

 学力の個人差はどの学校にも存在するものですが,それに加えて学習進度の個人差への対応まで求められるのが,通信制高校特有の指導の困難さです。
 基礎学力が多様化した状況での一斉指導は効果的ではなく(向後, 1999),学習進度に個人差がある状況での同一内容・同一ペースでの指導も効果的ではありません。 ゆえに,通信制高校の「面接指導」では「授業」以上に個に応じた指導が必要なのです。

【#3】通信制のイマとココから 面接指導における個に応じた指導の必要性02

 これに関しては,その必要性は高く認識されつつも,現実的には長年の課題となってきました。
 今から40年以上前の学習指導要領には,以下のような記載がありました。

【#3】通信制のイマとココから 面接指導における個に応じた指導の必要性03

「面接指導の本来の在り方は個別指導である」

 本来であれば,この一文だけで済ませてもよいにも関わらず,続く文章の中では通信制高校では原則として行われない「授業」(文部科学省, 2022)という言葉を(あえて)繰り返し用いて,面接指導内の指導方法に対する強い問題意識が表され,警鐘が鳴らされています。
 現在の学習指導要領では考えられないくらい直接的な表現ですよね。

 余談ですが,同様の問題意識が東京大学のアドミッション・ポリシー(期待する学生像)の中にも現れています。

【#3】通信制のイマとココから 面接指導における個に応じた指導の必要性05

「入学試験の得点だけを意識」「視野の狭い受験勉強」

 なかなか強い表現ですね。東大がここまで言わざるを得ないことに,危機感と問題意識の大きさがみてとれます。

 話を戻します。
 40年以上前に生徒数と教員数の関係で一斉指導が多くなっていると指摘されましたが,現在でも最大40人の生徒を対象に面接指導を実施する状況であり,依然として一斉指導形式の面接指導が多いのが現状です(土岐, 2014; 2023)。

 二重の個人差に対応しつつ,最大40人の生徒を対象に,面接指導で個に応じた指導を実施することは,決して容易ではありません。

「多様な生徒集団を対象に,個に応じた指導をいかに実現するか?」

 それが私の実践と研究の1番最初の動機であり,問いとなりました。


 次回のテーマは,「個に応じた指導の実践紹介」です。
 最後までお読みいただき,ありがとうございました!

【参考文献】

  • 加藤圭太, 森田裕介 (2025): 通信制高校の数学教師が必要性を認識する専門的知識の一検討―フォーカス・グループによるデータ収集と TPACK フレームワークを用いた質的データ分析を通して―, 科学教育研究, 49, 4, 345-362, https://doi.org/10.14935/jssej.49.345
  • 向後千春 (1999): 個別化教授システム (PSI) の大学授業への適用, コンピュータ&エデュケーション, 7, 117-122.
  • 文部省 (1980): 高等学校学習指導要領解説 総則編, 東山書房.
  • 文部科学省 (2018): 高等学校学習指導要領解説 総則編, https://www.mext.go.jp/content/20250213-mxt_kyoiku01-100002620_1.pdf
  • 文部科学省 (2021): 学習指導要領の趣旨の実現に向けた個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に関する参考資料(令和3年3月版), https://www.mext.go.jp/content/210330-mxt_kyoiku01-000013731_09.pdf
  • 文部科学省 (2022): 「令和の日本型学校教育」の実現に向けた通信制高等学校の在り方に関する調査研究協力者会議(審議まとめ), https://www.mext.go.jp/content/20220902-mxt_koukou02-000024811_01.pdf
  • 文部科学省 (2023): 高等学校通信教育の質の確保・向上のためのガイドライン, https://www.mext.go.jp/content/000235315.pdf
  • Tiboron, G. M. B. et al.(2021) :Procrastination Attitude of the Senior High School Students in Modular Distance Learning Modality, International Journal of Research and Innovation in Social Science, 4(6), 303-308.
  • 土岐玲奈 (2014): 通信制高校の類型と機能, 日本通信教育学会研究論集, 平成25年度, 49-61.
  • 土岐玲奈 (2023): 通信制高校生が他者と関わることの意義に関する教師の意識―インストルメンタルな機能とコンサマトリーな機能に着目して―, 星槎大学紀要 共生科学研究, 19, 34-46.
  • 東京大学 (n.d.) アドミッション・ポリシー, https://www.mext.go.jp/content/000235315.pdf
【加藤 圭太(かとう けいた)プロフィール】

通信制のイマとココから

 愛知教育大学を卒業後,県立高校で数学教師としてキャリアをスタート。当時はサッカー指導に没頭し,「教えることは,自分でプレーするよりも何倍も難しい…」と頭を抱える日々を過ごしていました。 その後,想定外の異動で現在の愛知県立旭陵高校(通信制)へ。そこで出会った「通信教育」という仕組みの持つ大きな可能性に魅了され,2020年には熊本大学大学院教授システム学専攻(フルオンラインの社会人大学院)へ入学。
 現在は,早稲田大学大学院の博士課程で通信制高校の研究を継続しています。近い将来の夢は,100kmウルトラマラソンの完走と,本場フィンランドのサウナに入ることです。
researchmap:https://researchmap.jp/keita-kato

その他のコンテンツ