10人に1人。これは何を表す数字でしょうか?
これは全高校生に占める「通信制高校」の生徒の割合です(文部科学省, 2025)。
通信制高校の学校数や生徒数は,少子化で高校生の数が減り続けているにも関わらず,ともに過去最多を更新し続けています。
通信制高校のことを目にしたり,耳にしたりする機会は増えつつあっても,そこでどんな教育が,どんな数学指導が行われているのかはよく知らないという方も多いのではないかと思います。
私は現在愛知県立旭陵高校(通信制)で数学の教員をしながら,早稲田大学大学院で教育工学研究に取り組んでいる加藤圭太と申します。
今回から始まる連載では,以下の内容で通信制高校の数学指導について,制度・理論・実践を交えながらお伝えさせていただければと思います。
第2回 自学自習支援:「学習材(learning materials)」の重要性と実践紹介
第3回 個に応じた指導(Personalized Instruction)の必要性と実践紹介
第4回 対面指導デザイン:反転授業を手がかりに
第5回 協働学習への挑戦と心理的安全性(Psychological Safty)
※ 内容の変更がありえますのでご了承ください。
第1回の今回は,「通信制高校の教育方法と対面指導・自学自習の関係性」がテーマです。
通信制高校の教育方法は,添削指導(レポート),面接指導(スクーリング),試験(テスト)によって行われる(文部科学省, 2018)ことから,それらの頭文字をとってRSTといわれることがあります。
そして,添削指導と面接指導が全日制・定時制(以下,通学制)高校の「授業」に相当します(文部科学省, 2018)。
数学Ⅰ(3単位)の場合,通学制高校では105時間の授業を行うことが標準であるのに対して,通信制高校では,9回のレポート,3回の面接指導,試験を行うことが標準となります(文部科学省, 2018)。
そして,これらを通して活性化される自学自習に通信制高校の教育の本質が見出されます(小川, 2022)。
逆にいえば,単に標準回数のレポートと面接指導,試験を実施するだけでは,通学制高校と同等以上の教育の質を保証することはできないということです。
私も含む多くの公立通信制高校の教員には,学校数の関係から通学制高校での指導経験しかありません。(そして,大半の先生が全日制高校で学び,教員になられているのではないでしょうか。)
この場合に,通信制高校での指導で,まず初めに何につまずくかというと,対面指導と自学自習の関係性の捉え方です。
以下の図のように,通学制高校では対面での授業が主,自学自習(予習・復習)が従の関係性になります。
一方で,通信制高校ではその主従が入れ替わり,自学自習が主,対面での面接指導が従の関係性になります。
赴任当初の自分もそうであったように,通学制高校での指導経験しかない場合,対面指導に力を注ごうとしてしまうケースが見受けられます。
しかし,通信制高校の場合には,従(サブ)の対面指導ではなく,主(メイン)の自学自習支援に力を注ぐ方が,教育の効果や効率が高いことは制度面から考えても明らかです。
それにも関わらず,従の方に力を注ごうとしてしまうのは,それほどまでに強力に対面重視の指導観や学習観が,(潜在的に)刷り込まれているためなのかもしれません。
この指導観や学習観の急激な転換が求められるのが,通信制高校赴任直後から起こる困難さです。
そして,自分の中にパラダイムシフトを起こすことは,そうそう簡単なことではありません。
ここに時間がかかっても,いかに向き合っていくか,それが通信制高校で教員をすることの覚悟が問われるポイントです。
次回のテーマは,通信制高校において主(メイン)となる自学自習支援を考える上で重要となる「学習材(learning materials)」についての解説と実践紹介です。
最後までお読みいただき,ありがとうございました!
【参考文献】
- 文部科学省 (2018): 高等学校学習指導要領解説 総則編,
https://www.mext.go.jp/content/20250213-mxt_kyoiku01-100002620_1.pdf
- 文部科学省 (2025): 学校基本調査, 令和7年度 学校通信教育調査票,
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tclass=000001235666&cycle=0
- 小川慶将 (2022): 高等学校通信教育規程 令和3年改正解説, 勁草書房.

愛知教育大学を卒業後,県立高校で数学教師としてキャリアをスタート。当時はサッカー指導に没頭し,「教えることは,自分でプレーするよりも何倍も難しい…」と頭を抱える日々を過ごしていました。 その後,想定外の異動で現在の愛知県立旭陵高校(通信制)へ。そこで出会った「通信教育」という仕組みの持つ大きな可能性に魅了され,2020年には熊本大学大学院教授システム学専攻(フルオンラインの社会人大学院)へ入学。
現在は,早稲田大学大学院の博士課程で通信制高校の研究を継続しています。近い将来の夢は,100kmウルトラマラソンの完走と,本場フィンランドのサウナに入ることです。
researchmap:https://researchmap.jp/keita-kato/misc/44217103
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