こんにちは。愛知県立旭陵高校/早稲田大学大学院の加藤圭太です。
第4回の今回は,「面接指導における個に応じた指導(Personalized Instruction)の実践紹介」がテーマです。
前回は通信制高校の面接指導における個に応じた指導の必要性についてお話をさせていただきました。
今回の実践紹介は,加藤ほか(2022)と加藤ほか(印刷中)からの引用を中心に,お話させていただきます。

この問いが私の実践と研究の1番最初の動機につながるものでした。
そして,個に応じた指導(Personalized Instruction)を実現するための理論的枠組みとして,個別化教授システム(Personalized System of Instruction: PSI)(Keller, 1968)を採用しました。
PSIの主要な特徴は,向後(2003)を参考に,以下のように整理されます。
② 自学自習可能な学習材として開発した学習ガイドによる自己ペース学習(講義は動機づけのためだけに限定的に使用)
③ プロクター(指導者)による個別指導と通過テストの実施
はじめに前提として,面接指導の実施条件を共有させていただきます。
面接指導の流れと設計の特徴,面接指導における学習の方法は,以下の図の通りです。
(詳細は「面接指導の進め方(初めて出席する人はここから!)」のページをご確認ください。)
【学習の方法について】
数学Iの面接指導では,自分のペースで学習を進めていくことができます。面接指導のどの回に出席しても,あなたの学習の進み具合に合わせた内容の学習に取り組むことができ,個別指導を受けることができます。
面接指導ではレポートの内容が理解できているか確認するための「通過テスト」を実施します。通過テストは前後期各4回分用意されており,第1回に合格したら第2回,第2回に合格したら第3回,というように順番に取り組んでもらうことで,1回ずつ確実に習得していってもらえるようになっています。通過テストは全員が一斉に受験するのではなく,各自で自信がついたら自分のタイミングで受験可能であり,合格するまで何度でも受験可能です。また,合格できないと単位が修得できないわけではありませんので,安心して積極的にチャレンジしてください。
そして,通過テストの受験資格として,「該当する回のレポートが提出済み」であることが設定されています。面接指導に出席する前にレポートの提出をできるようにしていきましょう(面接指導に出席した際に,第1回レポートが提出済みでない場合には,まずは第1回レポートの作成に取り組んでもらいます)。
通過テスト対策の学習は「模擬テスト」で行うことができます。通過テストは模擬テストの類題を出題しますので,自信がつくまで練習してみてください。解答例もありますので,自己採点してみてください。この模擬テストは,各回のレポートの解答QRコードの3ページ以降にも掲載してあります。
模擬テストでわからない内容があれば,「学習ガイド」で学習をしてみてください。学習ガイドも前後期各4回分用意されており,模擬テストの各問題に対応しています。学習ガイドは,6つのステップ(学習目標を確認する → 解説を読む(動画を視聴する) → 公式を覚える → 解答を写す → 穴埋め問題を解く → 自力で解く)を踏みながら段階的に理解を深められるようになっています。
PSIを実践する上で,最初に注力したのは自己ペース学習の際に学習材として使用する学習ガイドの開発でした。
PSIが成功するかどうかは,学習ガイドがどれだけうまく設計され,開発されているかによるところが大きいということが指摘されています(向後, 1999)。
なぜならば,教師1人が生徒25人を対象に50分間で個別指導を実施するという状況を想定した時に,均等に時間をかけたら1人あたり2分しかかけることができません。
しかし,より長い時間を必要とする生徒もいれば,適切な学習材があれば自分の力で学習を進めていくことができる生徒も存在します。
個に応じた指導を実現するためには,質の高い学習材を開発した上で,自走できる生徒を1人でも多く増やすことが,個別指導の必要性の高い生徒への時間を確保する上で重要になります。
(生徒が自走できることは,自学自習で自律的に学んでいく上でも重要になります。)
6つのステップによる学習ガイドの例:不等式の解き方(移行)
面接指導では,自学自習に必要な基礎的・基本的な学習知識の指導が求められます(文部科学省, 2018)。
自学自習に必要な学習知識は生徒によって異なります。
ゆえに,何が必要で(理解できていなくて),何が必要でない(理解できている)のかを明確にするための形成的評価が重要になります。
そして,PSIでは通過テストが形成的評価の役割を果たします。
面接指導でテストを実施することには,テスト不安の高い生徒がいることも想定される中で,当初は懸念もありましたが,以下のように通過テストに対する生徒からの肯定的な評価がありました。
生徒が通過テスト合格のための自己ペース学習に取り組んでいる際に,「対人関係に苦手意識のある生徒に配慮した個別指導」と「◯(まる)つけ法を用いた個別指導」を行っています。
PSIの設計はシステマティックなアプローチですが,実践は人間的なものになります。
実際に,PSIの通過テストはその場で採点し,フィードバックすることや,不正解の場合にも自分で間違いに気づき,修正できる場合には合格するような柔軟な対応を行うため,「人間化されたテスト」(向後, 1999)といわれることもあります。
こうしたバランスもPSIの魅力の1つではないかと思います。
以上が,面接指導における個に応じた指導の実践紹介となります。
PSIは,通信制高校の数学の面接指導にとてもマッチした指導方法だと感じています。
オリジナルのPSIを全て実践しなくとも,そのエッセンスをぜひ取り入れていただければ幸いです。
次回のテーマは,「通信制高校における対面指導デザイン:反転授業を手がかりに」となります。
最後までお読みいただき,ありがとうございました!
【参考文献】
- 加藤圭太, 鈴木克明, 合田美子, 久保田真一郎 (2022): 通信制高校の数学における個別化教授システムを用いた単位修得のための包括的支援設計による実践, 日本教育工学会論文誌, 46(Suppl.), 117-120.
- 加藤圭太, 降矢菜々香, 内山慎太郎, 森田裕介 (印刷中): 公立通信制高校における数学Ⅰの単位修得率向上を目指した個に応じた面接指導の実践と評価, 科学教育研究, 50, 2, XX-XX.
- Keller, F.S. (1968): “Good-bye, Teacher…”. Journal of Applied Behavior Analysis, 1, 1, 79-89.
- 向後千春 (1999): 個別化教授システム(PSI)の大学授業への適用,コンピュータ&エデュケーション, 7,117-122.
- 向後千春 (2003): 大学におけるWebベース個別化教授システム(PSI)による授業の実践. 教育心理学年報, 42, 182-191.
- 文部科学省 (2018): 高等学校学習指導要領解説 総則編,
https://www.mext.go.jp/content/20250213-mxt_kyoiku01-100002620_1.pdf - 労働政策研究・研修機構 (2016): 職業相談場面におけるキャリア理論及びカウンセリング理論の活用・普及に関する文献調査,
https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2016/165.html - 志水廣 (2005): 算数・数学の学力向上の方略について, イプシロン, 47, 45-55.
- 安友裕子 (2017): あなたはどこに座りますか?,
https://nutrition.nuas.ac.jp/tips/000024.html

愛知教育大学を卒業後,県立高校で数学教師としてキャリアをスタート。当時はサッカー指導に没頭し,「教えることは,自分でプレーするよりも何倍も難しい…」と頭を抱える日々を過ごしていました。 その後,想定外の異動で現在の愛知県立旭陵高校(通信制)へ。そこで出会った「通信教育」という仕組みの持つ大きな可能性に魅了され,2020年には熊本大学大学院教授システム学専攻(フルオンラインの社会人大学院)へ入学。
現在は,早稲田大学大学院の博士課程で通信制高校の研究を継続しています。近い将来の夢は,100kmウルトラマラソンの完走と,本場フィンランドのサウナに入ることです。
researchmap:https://researchmap.jp/keita-kato
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