以前の連載記事『大山壇の入試問題Pick Up !』とテーマが重複することもあるかもしれませんが,主に高校生・大学受験生に向けた内容にしていきます。生徒のみなさんにとっての演習に,先生方にとっては日々の指導の参考に,少しでも役立てば幸いです。
今回も『ベクトル』です。
前回はベクトルの和・差・実数倍をお話ししました。今回は内積です。
9.1 内積の定義
\(\vec{a}\) と \(\vec{b}\) の内積は,\(\vec{a}\) と \(\vec{b}\) のなす角を \(\theta\) として
\(\boldsymbol{\color{#ff0000}\vec{a}\cdot\vec{b}=|\vec{a}||\vec{b}|\cos{\theta}}\)
と定義されます。ただし,\(\vec{a}=\vec{0}\) や \(\vec{b}=\vec{0}\) のときは \(\vec{a}\cdot\vec{b}= 0\) と定めます。
この式の図形的な意味は,次のように考えられます。
\(\vec{a}\) を地面と考え,そこに \(\vec{b}\) が刺さっていて,真上から光をあてます。すると,\(\vec{b}\) の影 \(\overrightarrow{\text{OH}}\) ができます。これを「 \(\vec{b}\) の \(\vec{a}\) への正射影」といいます。
このとき,\(\vec{b}\) の正射影の符号付き長さが
\(|\vec{b}|\cos\theta\) (\(\theta\) が鋭角のときは正,鈍角のときは負)
と表されるので,内積 \(\vec{a}\cdot\vec{b}\) は
\(\begin{aligned}
\vec{a}\cdot\vec{b}&=|\vec{a}|\times|\vec{b}|\cos\theta \\[5pt]
&={\color{#ff0000}(\text{地面の長さ})}\times{\color{#0693e3}(\text{正射影の符号付き長さ})}
\end{aligned}\)
と考えることができます。
したがって,\(\vec{b}\) の長さや \(\cos\theta\) が分からなくても,地面と影の長ささえ分かれば内積の値が得られるということになります。
この見方を知っていると,次のような問題を瞬殺できます!
瞬殺できましたか?(解答例はこちら)
9.2 内積の性質
次図のような三角形 \(\text{OAB}\) を考えるとき,余弦定理が成り立つはずなので
\(|\vec{a}-\vec{b}|^2 = |\vec{a}|^2+|\vec{b}|^2-2|\vec{a}||\vec{b}|\cos{\theta}\quad\cdots\text{①}\)
という等式が成り立ちます(これは \(\theta = 0,\ \pi\) のときも成り立ちます)。
①と内積の定義式 \(\vec{a}\cdot\vec{b}=|\vec{a}||\vec{b}|\cos{\theta}\) から
\(\begin{aligned}
|\vec{a}-\vec{b}|^2 & =|\vec{a}|^2+|\vec{b}|^2-2\vec{a}\cdot\vec{b} \\[5pt]
\therefore \vec{a}\cdot\vec{b} & =\frac{|\vec{a}|^2+|\vec{b}|^2-|\vec{a}-\vec{b}|^2}{2}\quad\cdots\text{②}
\end{aligned}\)
とできます。ここで,ベクトルの成分表示を考えてみましょう。
\(\vec{a} = \begin{pmatrix}x_1 \\ y_1 \end{pmatrix},\ \vec{b} = \begin{pmatrix}x_2 \\ y_2 \end{pmatrix}\) とするとき
\(\begin{aligned}
& |\vec{a}|^2={x_1}^2+{y_1}^2 \\[5pt]
& |\vec{b}|^2={x_2}^2+{y_2}^2 \\[5pt]
& |\vec{a}-\vec{b}|^2=(x_1-x_2)^2+(y_1-y_2)^2
\end{aligned}\)
なので,②に代入すると
\(\begin{aligned}
\boldsymbol{\color{#ff0000}\vec{a}\cdot\vec{b}}
& = \cfrac{({x_1}^2+{y_1}^2)+({x_2}^2+{y_2}^2)-\{(x_1-x_2)^2+(y_1-y_2)^2\}}{2} \\[5pt]
& = \cfrac{{x_1}^2+{y_1}^2+{x_2}^2+{y_2}^2-({x_1}^2-2x_1 x_2+{x_2}^2+{y_1}^2-2y_1 y_2+{y_2}^2)}{2} \\[5pt]
& = \cfrac{2x_1x_2+2y_1y_2}{2} \\[5pt]
& = \boldsymbol{\color{#ff0000}x_1 x_2+y_1 y_2}
\end{aligned}\)
となります。このとき,次の4つの性質が成り立ちます。
(性質1)交換法則
\(\boldsymbol{\color{#ff0000}\vec{b}\cdot\vec{a}}=x_2 x_1+y_2 y_1\boldsymbol{\color{#ff0000}=\vec{a}\cdot\vec{b}}\)
(性質2)分配法則
\(\vec{c} = \begin{pmatrix}x_3 \\ y_3 \end{pmatrix}\) のとき
\(\begin{aligned}
\boldsymbol{\color{#ff0000}\vec{a}\cdot(\vec{b}+\vec{c})}
& =\begin{pmatrix}x_1 \\ y_1 \end{pmatrix}\cdot\begin{pmatrix}x_2+x_3 \\ y_2+y_3 \end{pmatrix} \\[8pt]
& =x_1(x_2+x_3)+y_1(y_2+y_3) \\& =x_1 x_2+x_1 x_3+y_1 y_2+y_1 y_3 \\[5pt]
& =(x_1 x_2+y_1 y_2)+(x_1 x_3+y_1 y_3) \\[5pt]
& \boldsymbol{\color{#ff0000}= \vec{a}\cdot\vec{b}+\vec{a}\cdot\vec{c}}
\end{aligned}\)
(性質3)実数倍
\(s,\ t\) を実数とするとき
\(\begin{aligned}
\boldsymbol{\color{#ff0000}(s\vec{a})\cdot(t\vec{b})}
& =\begin{pmatrix}sx_1 \\ sy_1 \end{pmatrix}\cdot\begin{pmatrix}tx_2 \\ ty_2 \end{pmatrix} \\[5pt]
& =sx_1tx_2+sy_1ty_2 \\[5pt]
& =st(x_1x_2+y_1y_2) \\[5pt]
& \boldsymbol{\color{#ff0000}= st(\vec{a}\cdot\vec{b})}
\end{aligned}\)
(性質4)2乗の表現
\(\boldsymbol{\color{#ff0000}\vec{a}\cdot\vec{a}}=\begin{pmatrix}x_1 \\ y_1 \end{pmatrix}\cdot\begin{pmatrix}x_1 \\ y_1 \end{pmatrix}={x_1}^2+{y_1}^2\boldsymbol{\color{#ff0000}=|\vec{a}|^2}\)
これらの性質により,文字式の積と同じような計算ができます。例えば
\(\begin{aligned}
|\vec{a}-\vec{b}|^2
& = (\vec{a}-\vec{b})\cdot(\vec{a}-\vec{b}) && \text{(性質4)} \\[5pt]
& =\vec{a}\cdot\vec{a}-\vec{a}\cdot\vec{b}-\vec{b}\cdot\vec{a}+\vec{b}\cdot\vec{b} && \text{(性質2,3)} \\[5pt]
& = \vec{a}\cdot\vec{a}-2\vec{a}\cdot\vec{b}+\vec{b}\cdot\vec{b} && \text{(性質1)} \\[5pt]
& =|\vec{a}|^2-2\vec{a}\cdot\vec{b}+|\vec{b}|^2 && \text{(性質4)}
\end{aligned}\)
と計算できるわけですが,これは文字式の展開
\((a-b)^2 = a^2-2ab+b^2\)
と似ていますね♪
以上の話は,空間ベクトルの場合でもすべて同様に成り立ちます。
これらの性質を利用することで,様々な問題を解けるようになります。
内積を(地面)×(影)と見ることができると,効率よく解けます。(解答例はこちら)
9.3 垂直条件
内積の定義から,\(\vec{a} \neq \vec{0}\),\(\vec{b} \neq \vec{0}\) のとき
\(\boldsymbol{\color{#ff0000}\vec{a} \perp \vec{b} \iff \vec{a}\cdot\vec{b}=0}\)
が成り立ちます。つまり,垂直という条件を見つけたら,内積が0という数式で表せるということです。
このことを利用すれば,「直線に下ろした垂線の足」や「平面に下ろした垂線の足」を求めることができるようになります。
点 \(\text{H}\) は「直線 \(\text{AB}\) 上にある」「 \(\text{CH}\perp \text{AB}\) 」の2つの条件で定まります。(解答例はこちら)
(1)の結果は有名公式なので,使えるように練習しておくと良いでしょう。
点 \(\text{H}\) は「平面 \(\text{ABC}\) 上にある」「 \(\text{DH}\perp (\text{平面ABC})\) 」の2つの条件で定まります。(解答例はこちら)
第9回は以上です。
前回と今回の2回でベクトルの基本事項を確認しました。これで,かなり多くの問題を解けるようになるはずです。頑張ってください!
次回は「積分による面積計算」を整理します。お楽しみに♪
宇都宮北高校,東北大学理学部数学科卒。
2006年度から代々木ゼミナールの講師となり,現在は新宿本部校と札幌校に出講しています。対面・映像の授業の他にも,テキスト・模試・解答速報の作成なども行っています。
もっと毒をはいている大山を見たい方は,X(旧Twitter)をどうぞ!→ @dan_oyama_0206
《著書》
・『全国大学入試問題正解』(旺文社)解答執筆(京大,一橋大,東北大など)
・『整数 分野別標準問題精講』(旺文社)
・『全レベル問題集③』(旺文社)
・『全レベル問題集⑤』(旺文社)
・『大山壇の基本から身につける計算力IA』(KADOKAWA)
・『大山壇の基本から身につける計算力IIB』(KADOKAWA)
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