(前編はこちら)
この疑問は次の問になります。前編で述べたように凸四角形のみを考えれば十分です。
【問】四辺の長さがそれぞれ \(a, b, c, d\) である四角形の周長を \(L\) とする。\(L\) を固定したとき,四角形の面積 \(A\) が最大となるような \(a, b, c, d\) を求めよ。

この問に答える前に,一般性を失うことなしに(without loss of generality),四角形は円に内接する四角形と仮定してよいことを示しましょう。
まず,四辺の長さがそれぞれ \(a, b, c, d\) である四角形が与えられたとして,長さ \(a\) の辺と長さ \(d\) の辺の間の頂点をばらして,開折れ線を作り,端点と頂点が十分に半径の大きいある円上に乗っているようにします。

次に,両端点と各頂点を円上に乗せたまま,円の半径を徐々に(連続的に)小さくします。両端点と各頂点は円弧に沿ってスライドするように動きます。

この操作を(連続的に)続けていき,ちょうど端点同士が一致したら終了します。

こうして,与えられた四角形が円の内接四角形でなくても,周長 \(L=a+b+c+d\) を変えずに,円の内接四角形に変形できます。
だから,始めから円の内接四角形だけを対象に考えればよいことがわかります。
【答】下図のようなある円に内接する四角形を考える。
内接四角形の性質から,長さ\(a, b\) に挟まれた角を \(\theta\)とすると,長さ \(c, d\) に挟まれた角は \(\pi-\theta\) となる。
また,図の対角線(破線)の長さを \(h\) とする。

対角線を底辺とする二つの三角形に対して余弦定理を適用すると,
\(\begin{aligned}
h^2 & =a^2+b^2-2ab\cos\theta \\[5pt]
h^2 & =c^2+d^2-2cd\cos(\pi-\theta) \\[5pt]
& =c^2+d^2+2cd\cos\theta \end{aligned}\)
となる。下の式から上の式を引いて,
\(\begin{aligned}
& 0=c^2+d^2-a^2-b^2+2(ab+cd)\cos\theta \\[5pt]
&\Leftrightarrow\quad\cos\theta=\cfrac{c^2+d^2-a^2-b^2}{2(ab+cd)} \end{aligned}\)
がわかる。
一方,内接四角形の面積 \(A\) は
\(\begin{aligned} \\[5pt]
A & =\cfrac{1}{2}ab\sin\theta+\cfrac{1}{2}cd\sin(\pi-\theta) \\[5pt]
& =\cfrac{1}{2}(ab+cd)\sin\theta \end{aligned}\)
である。
これより,\(\cos\theta\) を代入して整理していく。
\(\begin{aligned}
A &=\cfrac{1}{2}(ab+cd)\sqrt{1-\cos^2\theta} \\[5pt]
& =\cfrac{1}{2}(ab+cd)\sqrt{1-\left(\cfrac{c^2+d^2-a^2-b^2}{2(ab+cd)}\right)^2} \\[5pt]
& =\cfrac{1}{4}\sqrt{(2(ab+cd))^2-(c^2+d^2-a^2-b^2)^2} \\[5pt]
& =\cfrac{1}{4}\sqrt{(2ab+2cd+c^2+d^2-a^2-b^2)(2ab+2cd-c^2-d^2+a^2+b^2)} \\[5pt]
& =\cfrac{1}{4}\sqrt{((c+d)^2-(a-b)^2)((a+b)^2-(c-d)^2)}\\
& =\cfrac{1}{4}\sqrt{(c+d+a-b)(c+d-a+b)(a+b+c-d)(a+b-c+d)} \\[5pt]
& =\cfrac{1}{4}\sqrt{(L-2b)(L-2a)(L-2d)(L-2c)} \\[5pt]
& =\sqrt{(s-a)(s-b)(s-c)(s-d)}, \quad s=\cfrac{L}{2} \end{aligned}\)
これはいわゆるブラーマグプタの公式(Brahmagupta’s formula)である。
ここで,前回紹介した4変数版のAG不等式を思い出しましょう。
\(\begin{aligned}
&(a_1a_2a_3a_4)^{\frac{1}{4}}\leqq\cfrac{a_1+a_2+a_3+a_4}{4} \\
&\Leftrightarrow\quad a_1a_2a_3a_4\leqq\left(\cfrac{a_1+a_2+a_3+a_4}{4}\right)^4 \end{aligned}\)
この4変数版のAG不等式で,\(a_1=s-a, a_2=s-b, a_3=s-c, a_4=s-d\) とおいて,ブラーマグプタの公式に適用すると,
\(\begin{aligned}
A & \leqq\sqrt{\left(\cfrac{(s-a)+(s-b)+(s-c)+(s-d)}{4}\right)^4} \\[5pt]
& =\left(\dfrac{4s-L}{4}\right)^2 \\[5pt]
& =\cfrac{L^2}{16} \end{aligned}\)
がわかる。
よって,四角形版の等周比を
\(I_4=\cfrac{L^2}{16A}\)
とおくと,四角形版の等周不等式 \(I_4\geqq 1\) を得る。等号成立は,\(a_1=a_2=a_3=a_4\) から \(a=b=c=d\) である。
つまり正方形のとき,そしてそのときに限り等周比は \(I_4=1\) となり,一定の周長 \(L\) の中で面積 \(A\) が最大となる内接四角形は正方形であることがわかった。
また,長方形は内接四角形なので,\(I_\square=I_4\)である。
円に内接しない四角形の面積は,同じ周長の内接四角形の面積よりも小さいことが知られています。
例えば,ブレートシュナイダーの公式(Bretschneider’s formula)を用いればわかります。この公式の証明はブラーマグプタの公式と同様に示されます。
こうなると次なる疑問が湧きます。
【疑問】五角形版の等周不等式を作ることができるか? もっと一般の多角形版の等周不等式はどうだろう?
【答】結論だけ書くと,\(n\) 角形版の等周不等式は,
\(\pi_n=n\tan\cfrac{\pi}{n}\)
として,
\(I_n=\cfrac{L^2}{4\pi_n A}\geqq 1\)
である。
この証明はしないが,等号成立条件について考察しよう。(天下り的であるが)一辺の長さが \(a\) の正 \(n\) 角形について考えよう。

周長は \(L=na\) である。外角は \(\circ\circ=\cfrac{2\pi}{n}\) なので,\(\circ=\cfrac{\pi}{n}\) である。
これより,中心から辺に下ろした垂線の長さ \(h\) は,
\(h=\cfrac{a}{2\tan\frac{\pi}{n}}\)
となる。
面積は \(A=\cfrac{1}{2}nah=\cfrac{na^2}{4\tan\frac{\pi}{n}}\) であるから,
\(\cfrac{L^2}{A}=n^2a^2\cfrac{4\tan\frac{\pi}{n}}{na^2}=4n\tan\frac{\pi}{n}\)
これより,
\(\cfrac{L^2}{4\pi_n A}=1\)
を得る。
\(n\to \infty\) とすると,\(\pi_n\to\pi\) が成り立ち,正 \(n\) 角形は円に収束する。
円は一般の等周不等式の等号成立条件 \(\cfrac{L^2}{4\pi A}=1\) に他ならない。
\(n=3,4\)のとき,
\(\begin{aligned} & I_3=\cfrac{L^2}{12\sqrt{3} A}=\cfrac{L^2}{4\cdot 3\sqrt{3} A} \\[5pt]
& I_4=\dfrac{L^2}{16A}=\cfrac{L^2}{4\cdot 4A}\end{aligned}\)
であったが,\(3\sqrt{3}\) や \(4\) のそれぞれの意味は,\(\pi_3, \pi_4\) である。
2次方程式の解の公式は中学校で習いますが,3次,4次方程式についても解の公式を作ることができます。しかし,「5次以上の代数方程式には一般には代数的な解の公式が存在しない」という命題が知られています(ガロア理論の応用)。
このことから,ヘロンの公式やブラーマグプタの公式のような(与えられた辺の長さから出発して四則演算と根号をとる操作を繰り返して得られる)面積公式がないことが以下の研究会のメンバーによって示されました:
- Non-Biri数学研究会,「ヘロンとガロワ」,『数学セミナー』,日本評論社,2009年11月号。
- のんびり数学研究会,『ガロアに出会う:はじめてのガロア理論』,数学書房,2014年。(付録3に上記数学セミナーの記事を再録)
上の意味での面積公式がないので,AG不等式を用いるような直接的な評価を通して多角形版の等周不等式を導出することは難しいでしょう。
■ ゼノドロスの贈り物
ゼノドロス(Zenodorus,200 BC-140 BC)はギリシャの数学者。ゼノドロスは一定の周長を持つ図形の面積と,一定の表面積を持つ立体の体積を研究した。前者について,次の三つを主張した。
1. 周長が一定の多角形のうち,面積が最大となるのは正多角形である。
2. 周長が一定の正多角形について,辺の数が大きいほど面積も大きい。
3. 円と正多角形の周長が等しいならば円の方が面積が大きい。
等周問題の草分けである。他にも,太陽に向けて置いたときに反射した光線が一点に集まり,それによって火傷を引き起こすような鏡面をどのように見つけるかを考えた。回転放物面の焦点に関する研究で,パラボラアンテナの原理だ。
※「つい考えてしまう数学」の記事一覧はこちら
1970年東京生まれ。早稲田大学理工学部数学科卒業。東京大学大学院数理科学研究科数理科学専攻博士課程修了。現在,明治大学理工学部数学科専任教授。博士(数理科学)。専門は応用数理,特に界面現象の数理解析。実験を採り入れた数学の講義で定評がある。
| 著書: | 『実験数学読本』①・②・③ (日本評論社),『次元解析入門』,『界面現象と曲線の微積分』,『動く曲線の数値計算』(以上共立出版),『大学数学の教則』(ちくま学芸文庫),『公式は覚えないといけないの?』(ちくまプリマー新書),他。 |
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