前回,相加平均・相乗平均の不等式,あるいは算術平均・幾何平均の不等式とその拡張について考察しました。今回は,この不等式から多角形を特徴付ける新たな不等式を作りだしてみましょう。
平面内の単純閉曲線(ジョルダン曲線)を \(\Gamma\) とし,\(\Gamma\) の周長を \(L\),囲まれた部分の面積を \(A\) とします。
このとき,
\(\cfrac{L^2}{4\pi A}\geqq 1\)
が成り立ちます。この不等式を等周不等式と呼びます。等号成立は \(\Gamma\) が円のとき,またそのときに限り成り立ちます。
等周不等式の左辺の分数を等周比(isoperimetric ratio)と呼んで,\(I\) と書きます。
\(I=\cfrac{L^2}{4\pi A}\)
【問】\(\Gamma\) が半径 \(R\) の円のときの等周比 \(I\) を求めよ。
【答】\(L=2\pi R,\ A=\pi R^2\) より,
\(I=\cfrac{(2\pi R)^2}{4\pi^2 R^2}=1\)
です。
注)\(\Gamma\) が円ならば \(I=1\) ですが,その逆,\(I=1\) となる \(\Gamma\) は円に限ることを示すこともできます。しかし,その証明は,等周不等式を証明する中で示すのがよいでしょう。それには,いろいろな数学的準備が必要となるので,ここでは割愛します。
注)対象とするジョルダン曲線は凸であるものに限れば十分です。実際,下図左の青色の曲線の周長を \(\color{#0693e3}L\) とし,面積を \(\color{#0693e3}A\) とします。この曲線の凹んでいる部分を平らにして,凸曲線として膨らませた曲線を下図右の赤色の曲線とします。この周長を \(\color{#ff0000}L\) とし,面積を \(\color{#ff0000}A\) とします。

このとき,\({\color{#ff0000}L}\leqq {\color{#0693e3}L},\ {\color{#ff0000}A}\geqq {\color{#0693e3}A}\)なので,
\(\cfrac{{\color{#ff0000}L}^2}{4\pi {\color{#ff0000}A}}\geqq 1\quad \Rightarrow \quad \cfrac{{\color{#0693e3}L}^2}{4\pi {\color{#0693e3}A}}\geqq 1\)
が成り立つので,凸なジョルダン曲線に対する等周不等式だけを考えればよいことがわかります。
等周不等式の証明はいろいろと知られています。ここでは,多角形版等周不等式を示しましょう。最も簡単なものは次の問です。
【問】縦横の辺の長さがそれぞれ \(a,\ b\) である長方形の周長を \(L\) と固定したとき,長方形の面積 \(A\) が最大となるような \(a,\ b\) を求めよ。

【答】周長 \(L=2(a+b)\) を固定して,\(A=ab\) を最大にすることを考える。
算術平均・幾何平均の不等式(略してAG不等式)を用いると,
\(\begin{aligned}
A =ab & \leqq\cfrac{a^2+b^2}{2} \\[5pt] &=\cfrac{(a+b)^2-2ab}{2} \\[5pt]
&=\cfrac{\left(\frac{L}{2}\right)^2-2A}{2} \\[5pt] &=\cfrac{L^2}{8}-A
\end{aligned}\)
から,不等式
\(\cfrac{L^2}{16A}\geqq 1\)
を得る。等号成立はAG不等式における等号成立であるから,\(a=b\) のときである。
つまり,周長一定で面積が最大となる長方形は正方形に他ならないことがわかった。
左辺の分数は,長方形版の等周比であるので,これを
\(I_\square=\cfrac{L^2}{16A}\)
と書くことにすると,長方形版の等周不等式 \(I_\square\geqq 1\) を得たことになる。
【別解】
\(b=\cfrac{L}{2}-a\) と書けるので,
\(A=ab=a\left(\cfrac{L}{2}-a\right)\)
である。
\(0\lt a \lt\cfrac{L}{2}\) であるから,\(A\) の式は上に凸な放物線の一部である。よって,放物線の頂点が \(A\) の最大値となる。最大値を達成する \(a\) は,\(a\) の区間の中点 \(\cfrac{L}{4}\) であり,このとき \(b=\cfrac{L}{4}\) である。
よって,\(a=b=\cfrac{L}{4}\) のとき,つまり正方形のとき,そしてそのときに限り面積は最大値\(A=\cfrac{L^2}{16}\) をとり,\(I_\square=1\) がわかる。
正方形でない長方形の面積 \(A\) は \(A \lt \cfrac{L^2}{16}\) なので,\(I_\square \gt 1\) である。
したがって,正方形の場合も含めて等周不等式 \(I_\square \geqq 1\) を得る。
長方形よりも三角形版の等周不等式を示す方がやや手間がかかります。
【問】三辺の長さがそれぞれ \(a,\ b,\ c\) である三角形の周長を \(L\) とする。\(L\) を固定したとき,長方形の面積 \(A\) が最大となるような \(a,\ b,\ c\) を求めよ。

【答】長さ \(b\) と長さ \(c\) の辺に挟まれた角を \(\theta\) とする。

面積 \(A\) は,
\(A=\cfrac{1}{2}bc\sin\theta\)
と表される。一方,余弦定理から,
\(a^2=b^2+c^2-2bc\cos \theta \quad \Leftrightarrow \quad \cos \theta=\cfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}\)
であるので,
\(\begin{aligned}
A&=\cfrac{1}{2}bc \sqrt{1-\left(\cfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}\right)^2} \\[5pt]
&=\cfrac{1}{4} \sqrt{(2bc)^2-(b^2+c^2-a^2)^2} \\[5pt]
&=\cfrac{1}{4} \sqrt{(2bc+(b^2+c^2-a^2))(2bc-(b^2+c^2-a^2))} \\[5pt]
&=\cfrac{1}{4} \sqrt{((b+c)^2-a^2)(a^2-(b-c)^2)} \\[5pt]
&=\cfrac{1}{4} \sqrt{(b+c+a)(b+c-a)(a+b-c)(a-b+c)}
\end{aligned}\)
を得る。
周長は \(L=a+b+c\) なので,これを使って整理すると,
\(\begin{aligned}
A&=\cfrac{1}{4}\sqrt{L(L-2a)(L-2b)(L-2c)} \\[5pt]
&=\sqrt{\cfrac{L}{2}\left(\cfrac{L}{2}-a\right)\left(\cfrac{L}{2}-b\right)\left(\cfrac{L}{2}-c\right)}
\end{aligned}\)
となる。
\(s=\cfrac{L}{2}\) とおくと,
\(A=\sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}\)
となる。
これはいわゆるヘロンの公式(Heron’s formula)である。
ここで,前回紹介した3変数版のAG不等式を思い出しましょう。
\((a_1a_2a_3)^{\frac{1}{3}} \leqq \cfrac{a_1+a_2+a_3}{3} \quad\Leftrightarrow\quad a_1a_2a_3\leqq \left(\cfrac{a_1+a_2+a_3}{3}\right)^3\)
この3変数版のAG不等式で,\(a_1=s-a,\ a_2=s-b,\ a_3=s-c\) とおいて,ヘロンの公式に適用すると,
\(\begin{aligned}
A&\leqq\sqrt{s\left(\cfrac{(s-a)+(s-b)+(s-c)}{3}\right)^3} \\[5pt]
&=\sqrt{s\left(\cfrac{3s-(a+b+c)}{3}\right)^3} \\[5pt]
&=\sqrt{s\left(\cfrac{3s-L}{3}\right)^3} \\[5pt]
& =\sqrt{s\left(\cfrac{s}{3}\right)^3} \\[5pt]
&=\cfrac{s^2}{3\sqrt{3}} \\[5pt]
&=\cfrac{L^2}{12\sqrt{3}}
\end{aligned}\)
がわかります。
よって,三角形版の等周比を
\(I_3=\cfrac{L^2}{12\sqrt{3}A}\)
とおくと,三角形版の等周不等式 \(I_3\geqq 1\) を得ます。等号成立は,\(a_1=a_2=a_3\) から \(a=b=c\) です。
つまり正三角形のとき,そしてそのときに限り等周比は \(I_3=1\) となり,一定の周長 \(L\) の中で面積 \(A\) が最大となる三角形は正三角形であることがわかりました。
【疑問】長方形でない一般の四角形に対して,四角形版の等周不等式を示すことはできるでしょうか?
(後編では,一般の四角形および多角形について考えます。)
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1970年東京生まれ。早稲田大学理工学部数学科卒業。東京大学大学院数理科学研究科数理科学専攻博士課程修了。現在,明治大学理工学部数学科専任教授。博士(数理科学)。専門は応用数理,特に界面現象の数理解析。実験を採り入れた数学の講義で定評がある。
| 著書: | 『実験数学読本』①・②・③ (日本評論社),『次元解析入門』,『界面現象と曲線の微積分』,『動く曲線の数値計算』(以上共立出版),『大学数学の教則』(ちくま学芸文庫),『公式は覚えないといけないの?』(ちくまプリマー新書),他。 |
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