特集記事(高校)

高校

2025.08.28

【#10】大山壇の入試問題Pick Up!「不等式の意味」

 予備校講師の大山が,近年の大学入試問題をPick Upしながら,どのように指導しているかを紹介していく連載記事です。みなさんの日々の少しでも役立てば幸いです。

 夏の夕立に制服を濡らしながら走って校舎に来る生徒が,「さいあくぅっ!」なんて言いながらも楽しそうだったりします。青春って感じで羨ましいですね(笑)
 こんにちは。大山です。今回は,不等式の扱いについて書いてみたいと思います。

記号の意味

 当然のことですが,数学の言葉や記号の意味(定義)は正しく理解しておかなければいけません。
 大山がよく使う例を一つ紹介すると

「方程式 \(x^2=1\) の複素数解を求めよ。」

です。これはもちろん,複素数,実数,虚数という言葉の意味を正しく理解しているかを試す発問です。毎年「なし」と答える生徒が一定数います(苦笑)。

 今回のテーマに関するものとしては

「\(3\geqq2\) と \(3\geqq3\) はそれぞれ正しいか?(記号の使い方が正しいか?)」

という発問もよくします。これは,記号「≧」の意味が「>または=」であることを理解していればどちらも正しいと分かります。が,大山の体感としては,これらを間違っていると考える生徒が3~4割ほどはいます(クラスによってはもっと酷い結果に…)。
 そして,次の(1)のような証明問題で「等号成立条件を書かなければいけない」と考えている受験生はもっと高い割合でいるようです。

【#10】大山壇の入試問題Pick Up!「不等式の意味」01

 等号成立条件は,問われていなければ不要ですし,本間はそもそも等号成立しません。なお,(2)はけっこう難しいですね。(解答例はこちら

大小と範囲

 不等式 \(a \gt b\) には「\(a\) は \(b\) より大きい」という意味しかありません。つまり,不等式は大小関係を表しています。例えば「\(1 \lt \sqrt{2} \lt 2\) 」という不等式は「\(\sqrt{2}\)  は1より大きく,2より小さい」という意味を表しています。

 しかし,文脈によってはもう少し意味が追加される場合があります。例えば

\(f(x)=x^2 \quad (1 \leqq x \leqq 2)\)

と書かれたら,この不等式 \(1 \leqq x \leqq 2\) は関数 \(f(x)\) の定義域,すなわち \(x\) の値の範囲を表すと考えるのが慣習です。つまり,この不等式は集合

\(\{x|1 \leqq x \leqq 2\}\)

の略記になっていて,「\(x\) は1から2までをくまなく動く」という意味を表しています。

 この不等式の意味の違いを認識していないことで,次のような誤答が生じているのでしょう。

【問題】 \(x \gt 0\) における関数 \(f(x)=x+\frac{1}{x}\) の最小値を求めよ。
<解答> 相加平均と相乗平均の大小関係より
\(x+\dfrac{1}{x} \geqq 2\sqrt{x\cdot\dfrac{1}{x}}  \therefore f(x)\geqq 2\)

よって、\(f(x)\) の最小値は\(2\)である。

 いわゆる『相加・相乗平均の関係』は大小関係を表しているだけなので,上記の解答では「\(f(x)\) は2以上である」と主張しているだけであり,「\(f(x)\) が2をとる」ことを保証できていません。

 大山はよく

「テスト結果について

(A)このクラスは全員60点以上
(B)このクラスの最低点は60点

の2つは違うでしょ?(A)は60点の人がいるとは限りませんが,(B)は60点の人がいます。」
という話をしています。

 さて,上記の誤答も次のようにすれば正解となります。

<解答> 相加平均と相乗平均の大小関係より
\(x+\dfrac{1}{x} \geqq 2\sqrt{x\cdot\dfrac{1}{x}} \therefore f(x)\geqq 2\)

等号成立条件は
\(x \gt 0\) かつ \(x = \dfrac{1}{x} \therefore x=1\)

よって,\(f(x)\) の最小値は \(f(1)=2\) である。

 これはつまり,「 \(f(x) \geqq 2\) であること」と「 \(f(x)=2\) となる \(x\) が存在すること」の両方を示したので,最小値が2であることを正しく説明できているのですね。ちなみに,この解答であっても「\(f(x)\) が2以上のすべての実数値をとること」までは説明できていません。

 この辺りの議論を正しく理解できているかを確認する問題がこちらです。(出題者がどこまでの議論を要求しているのかは不明ですが…)

【#10】大山壇の入試問題Pick Up!「不等式の意味」02

(2)が微妙にやっかいですね。本間は理系の出題なので数学Ⅲの微分が使えますが,同様の出題は文系でも見られます。そのときの(厳密な)対処法として,大山は「実数  の存在確認」を説明しています。まぁ,現実的にはもうちょっとラフな解答でも良さそうな気はしていますが。(解答例はこちら


 第10回は以上になります。数学には時々,「暗黙の了解」がありますよね。でも,それが学習者にとっての躓きポイントになってしまう可能性があります。我々指導者にとっては,その辺りをウマく導いてあげるのが腕の見せ所です。
 次回は,「幾何条件の数式化」について書きたいと思います。まだまだ暑い日が続きますが,冷たい物の食べすぎ・飲みすぎに注意して,頑張っていきましょう!

【大山 壇(おおやま だん)先生 プロフィール】
宇都宮北高校,東北大学理学部数学科卒。
2006年度から代々木ゼミナールの講師となり,現在は新宿本部校と札幌校に出講しています。対面・映像の授業の他にも,テキスト・模試・解答速報の作成なども行っています。
もっと毒をはいている大山を見たい方は,X(旧Twitter)をどうぞ!→ @dan_oyama_0206
《著書》
・『全国大学入試問題正解』(旺文社)解答執筆(京大,一橋大,東北大など)
・『整数分野別標準問題精講』(旺文社)
・『全レベル問題集 3』(旺文社)
・『全レベル問題集 5』(旺文社)
・『大山壇の基本から身につける計算力IA』(KADOKAWA)
・『大山壇の基本から身につける計算力IIB』(KADOKAWA)

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