板状の積み木(ブロック,木片),ドミノ,トランプなど, 少し堅くて薄い直方体(あるいは長方形)の同じ形状のものを沢山(10個程度)用意しましょう。 前回使った,カプラ(KAPLA (R))も使い勝手がよいです。
机の端に積み木を数枚ずらして重ねます。 下図のようにうまくずらして重ねて, 一番上の積み木が机からはみ出して宙に浮いている状態になったら合格です。

【問】できますか?
【答】下図のように,ある積み木の端に,その上に乗っているすべての積み木を合わせた重心がくるようにずらす。一番下の積み木は,すべての積み木を合わせた重心が机の端になるようにずらす。

うまくずらすと,一番上の積み木を机からはみ出させることができます。

実際,
\(1+\cfrac{1}{2}+\cfrac{1}{3}+\cfrac{1}{4}+\cfrac{1}{5}=\cfrac{137}{60}\gt1+\cfrac{1}{2}+\cfrac{1}{3}+\cfrac{1}{4}=\cfrac{25}{12}\gt2\)
です。 理論的には, 積み重ね可能な枚数は単調に増加します。
\(1+\cfrac{1}{2}+\cfrac{1}{3}+\cdots+\cfrac{1}{n}+\cdots\)

どこまで増加するのでしょうか。
実は「永遠」に増加します。つまり,上の級数——調和関数という——は,正の無限大に発散することが知られています。理想的には,天まで昇る橋ができるのです。
以下,このことを考察していきましょう。
改めて調和級数(harmonic series)とは,
\(S=1+\cfrac{1}{2}+\cfrac{1}{3}+\cdots+\cfrac{1}{n}+\cdots\)
のように,自然数の逆数の無限和のことをいいます。 和の記号 \(\sum\) を使えば,
\(S=\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\cfrac{1}{n}\)
となります。\(S\) の第 \(N\) 部分和を \(S_N\) と書くと,
\(S_N=\displaystyle \sum_{n=1}^{N}\cfrac{1}{n}\)
で,無限級数 \(S\) は \(S=\displaystyle \lim_{N\to\infty}S_N\) と定義されます。
各項 \(\cfrac{1}{n}\) は,\(n\) が大きくなるにつれ0に近づくにも関わらず,塵も積もれば山となるで,\(S_N\) は \(N\to\infty\) のとき,正の無限大に発散します。 有名な事実ですが,きちんと証明しておきましょう。
発散する級数で下から評価する方法です。
【問1】 \(S_N\) は \(N\to\infty\) のとき,正の無限大に発散することを示せ。
【答1】 \(m=[\log_2N]\) とおくと,\(2^m\leqq N\lt2^{m+1}\) で,\(N\to\infty\) のとき \(m\to\infty\) である。よって
これで証明終了です。(※画像を選択すると拡大します。)
これより,ある定数 \(C\gt0\) があって \(S_N\gt C\log N\) となるので,\(S_N\) は対数のオーダーと同じかそれよりも速く発散することがわかります。
実は,下の2図をヒントに, \(S_N\) はちょうど対数 \(\log N\) のオーダーで発散することがわかります。
【問2】 \(S_N\) は \(N\to\infty\) のとき,ちょうど \(\log N\) と同じオーダーで正の無限大に発散することを示せ。
【答2】まず,下図は,6個の緑色の短冊の面積を合わせた \(S_6\) が, 曲線 \(\cfrac{1}{x}\) と \(x=1, x=7\) と \(x\) 軸で囲まれた図形の面積よりも大きいことを示しています。 つまり,\(N=7\) のとき,不等号
\(S_{N-1}\gt\displaystyle \int_1^{N}\cfrac{1}{x}\,dx=\log N\) …(*)
が成立しています。

次に,下図は,6個の青色の短冊の面積を合わせた \(S_7-1\) が, 曲線 \(\cfrac{1}{x}\) と \(x=1, x=7\) と \(x\) 軸で囲まれた図形の面積よりも小さいことを示しています。 つまり,\(N=7\) のとき,不等号
\(S_N-1\lt \displaystyle \int_1^{N}\cfrac{1}{x}\,dx=\log N\)
が成立しています。

これより,一般に,
\(log(N+1)\lt{S_N}\lt\log N+1\) …(**)
\(\Longleftrightarrow\log N+\log \left(1+\cfrac{1}{N}\right)\lt {S_N}\lt \log N+1\)
がわかります。
よって,両辺を \(\log N\) で割って,
\({1+\cfrac{\log(1+\frac{1}{N})}{\log N}} \lt {\cfrac{S_N}{\log N}} \lt {1+\cfrac{1}{\log N}}\)
から,
\(\displaystyle \lim_{N\to\infty}\cfrac{S_N}{\log N}=1\)
となって,\(S_N\) がちょうど \(\log N\) と等しいオーダーで発散することが示されます。
【注意】(**)の左の不等式 \({S_N} \gt {\log(N+1)}\) は,\(S_N\to\infty\) の別証明になっています。
こうして,調和級数は対数のオーダーで発散することがわかりました。
\(S_N\) が \(\log N\) と同じオーダーで発散することがわかったとしても,上の図でいうと,\(N=7\) のとき,緑色の短冊は曲線の上に飛び出ていて,その部分をオレンジ色にすると,オレンジ色の部分は \(N\to\infty\) のとき,相対的に0になるのであって,絶対的に0になるわけではありません(下図左)。
区間 \([1, 2]\) 上のオレンジ色の図形の面積は \(1-\log 2\) です。
区間 \([2, 3]\) 上のオレンジ色の図形の面積は \(\cfrac{1}{2}-\log 3+\log 2\) です。
だから,合わせると,区間 \([1, 3]\) 上の2つのオレンジ色の図形の面積は \(\cfrac{3}{2}-\log 3\) です。
これらの面積が0になるわけではありません。
同様に,青色の短冊と曲線の隙間(オレンジ色)は,大きい \(N\) に対して,長い区間 \([1, N]\) 上でみると,ほとんど見えなくなりますが,なくなるわけではありません。

実際,曲線の上下のオレンジ色の図形を合わせると,下図のようになりますが,これらの大きさは,
\({S_{N-1}}-({S_N}-1)=1-\cfrac{1}{N}\)
で,\(N\to\infty\) のとき,1に収束します。

だから,緑色の短冊の曲線より上のオレンジ色の部分をすべて足し合わせると,1より小さい値になるはずです。
【疑問】緑色の短冊の曲線より上の部分をすべて足し合わせると,いかほどになるでしょうか。
【答】上の不等式(*)を用いると,区間 \([1, N]\) 上のオレンジ色の部分の面積の和は,区間 \([1, 2]\) のオレンジ色の部分の面積よりも大きい。つまり,下から正の値 \(1-\log 2\) で押さえられる。
\({S_{N-1}}-\displaystyle \int_1^N\cfrac{1}{x}\,dx\geqq{S_1}-\displaystyle \int_1^2\cfrac{1}{x}\,dx=1-\log 2\gt0\)
これより,\(S_{N-1}\lt S_N\) で,\(\displaystyle \lim_{N\to\infty}(S_N-S_{N-1})=0\) より,\(N\to\infty\) として,オレンジ色のすべての部分を足し合わせた極限和は,
\(\displaystyle \lim_{N\to\infty}({S_{N}}-\log N)\geqq 1-\log 2=0.30685\cdots\gt0\)
と下から正の値で評価される(0にならない!)。
ここで,数列 \(a_N=S_N-\log N\) を考えると,\(a_N\) は単調減少である。 実際,以下のように示される。まず,
\({a_N}-{a_{N+1}}=\log\left(1+\cfrac{1}{N}\right)-\cfrac{1}{N+1}\)
より,\(x\geqq 0\) に対して,
\(f(x)=\log(1+x)-\cfrac{x}{1+x}\)
とおくと,\({a_N}-{a_{N+1}}=f\left(\cfrac{1}{N}\right)\) である。次に,\(f(0)=0\) で,
\(f'(x)=\cfrac{x}{(1+x)^2}\gt 0 \quad (x\gt 0)\)
より,\(x\gt0\) のとき \(f(x)\gt0\) である。これより,特に \(f\left(\cfrac{1}{N}\right)\gt0\) がわかり,\(a_N\gt a_{N+1}\) を得る。
よって,数列 \(a_N\) は単調減少で,\(a_N\geqq 1-\log 2\gt0\) だから下に有界である。
一般に,単調減少数列が下に有界ならば収束することがわかっているので,この事実を使うと,\(a_N\) は \(N\to\infty\) のとき収束する。 その極限値を \(\gamma\) とおくと,
\(\displaystyle \lim_{N\to\infty}({S_N}-\log N)=\gamma\)
を得る。
つまり,緑色の短冊で曲線より上のオレンジ色の極限和はとなり,青色の短冊で曲線より下の隙間のオレンジ色の極限和は \(1-\gamma\) となることがわかりました。
現在,\(\gamma=0.5772\cdots\) ということがわかっていて, オイラー・マスケローニ定数(Euler–Mascheroni constant)と呼ばれます。 \(\gamma\) が無理数かどうかは未解決問題です。
■マスケローニの贈り物
ロレンツォ・マスケローニ(Lorenzo Mascheroi, 1750[伊]-1800[仏])はイタリアの幾何学者,詩人であるが,当初は神学校で物理学と数学を教えていた。後にパヴィア大学で数学の教授になった(1786年)。その後,1789年に同大学の学長に就任した。
学長の任期中の1790年にオイラー定数を小数点以下32桁まで計算し,\(\gamma\) と表した。実際には最初の19桁までが正しかったが,残りの桁は1809年にヨハン・フォン・ゾルドナー(Johann von Soldner)によって修正された。(オイラーはこの定数を16桁まで計算し記号 \(\mathrm{C}\) を使っていた。)こうして,現在は,\(\gamma\) をオイラー・マスケローニ定数と呼んでいる。
また,1797年にすべてのユークリッド幾何学の作図はコンパスだけで行うことができ,定規は必要ないことを証明した。
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1970年東京生まれ。早稲田大学理工学部数学科卒業。東京大学大学院数理科学研究科数理科学専攻博士課程修了。現在,明治大学理工学部数学科専任教授。博士(数理科学)。専門は応用数理,特に界面現象の数理解析。実験を採り入れた数学の講義で定評がある。
| 著書: | 『実験数学読本』①・②・③ (日本評論社),『次元解析入門』,『界面現象と曲線の微積分』,『動く曲線の数値計算』(以上共立出版),『大学数学の教則』(ちくま学芸文庫),『公式は覚えないといけないの?』(ちくまプリマー新書),他。 |
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