【問1】銀色の円柱棒は1本でしょうか。

【問2】本当に1本でしょうか。

【答】6本でした。

問1の写真からだけではわかりませんが,問2の写真に写っている影から6本の可能性がわかります。もちろん隠れているものが同じものである保証はないので「正解」はありません。
配置によってはかつてあった千住火力発電所の「お化け煙突」になります(足立区HP,Wikipedia)。
ブロックで立体三角形を作る
【問3】直方体のブロックで次の写真のような立体三角形を作ってください。

最初の2つの写真はカプラ(KAPLA(R))と呼ばれる直方体の木製ブロック(積み木)で作ったもので,次のように大きさが規定されているところが特徴的です。

上の立体三角形を図で描くと次のようになります。

【疑問】上の図と【問3】の写真の立体三角形の違いは何でしょうか?
前回,下図を紹介しました。これらはそれぞれ平面内で四角形を3つくっつけて描いた図形です。が,直方体(空間図形)を鳥瞰した図に見える人もいるでしょう。

【答】【問3】の写真は,現実にある立体を写真(平面の図)にしたものなので,写真(平面の図)をみると,頭の中で立体を復元します。
一方,【疑問】の上の図は,線で描いた平面の図です(上の2つの図と同じ!)。これが【疑問】の一つの回答といえるでしょう。
しかし,頭の中で,
現実にある立体 \(\boldsymbol{\rightleftarrows}\) 平面写真
という行き来ができてしまうため,
現実にある立体 → 平面写真 \(\boldsymbol{\fallingdotseq}\) 線で描いた平面の図 → 現実にある立体(幻想)
という思考回路が出来てしまうと考えられます。
下の写真は,その幻想(ある種の先入観)を打破するためのヒントです。

ようじの先は見えませんが,影は写っています。
ペンは水平に浮いて(?)います。
3枚目はよく見ると奥のブロックの焦点がずれています(ピンボケ)。
立体三角形が幻想であることを数学的に証明する
【問4】下図の点 \(\mathrm{P}\) の座標 \(( x, y, z )\) を答えてください。

【答】原点 \(\mathrm{O} ( 0, 0, 0 )\) から,
\(x\) 方向に \(3\),\(y\) 方向に \(15\),\(z\) 方向に \(1\)
進んだ所に点 \(\mathrm{P}\) があるので,点 \(\mathrm{P}\) の座標は \(( 3 ,15, 1 )\) です。
【注】これは,別のルート,例えば,
\(z\) 方向に \(1\),\(y\) 方向に \(15\),\(x\) 方向に \(3\)
進んでも同じ点 \(\mathrm{P}\) にたどり着きます。
【問5】【問4】と同じように下図の点 \(\mathrm{P}\) の座標 \(( x, y, z )\) を答えてください。

【答】原点 \(\mathrm{O} ( 0, 0, 0 )\) から点 \(\mathrm{P}\) にいたるルートによって点 \(\mathrm{P}\) の座標が変わります。

赤ルートは,
\(z\) 方向に \(15\),\(y\) 方向に \(1 + 3 = 4\),\(x\) 方向に \(15\)
と進むので,点 \(\mathrm{P}\) の座標は \(( 15, 4, 15 )\) です。
緑ルートは,
\(x\) 方向に \(3 + 1 = 4\),\(y\) 方向に \(15\),\(z\) 方向に \(3 + 1 = 4\)
と進むので,点 \(\mathrm{P}\) の座標は \(( 4, 15, 4 )\) です。
ルートによって座標が変わるということは,このような点は存在しないということが証明されました。
現実は下図のようになっています。4つのブロックを使っています。灰色のブロックが見えないような角度から撮影しています。

ブロックで立体四角形を作る
【問6】直方体のブロックで次の写真のような立体四角形を作ってください。

【答】これがあり得ないことは,○から●に小さな立方体ブロックに沿って辿ってみるとわかります。(カプラ(KAPLA(R)))の大きさに整合させたい人は,立方体ブロックの1辺の長さは \(3\) としましょう。)

○から●へ辿ることはできますが,ルートによってどの方向にいくつ進むかが変わりますね。
【問7】実際,下図の点 \(\mathrm{A}\) と点 \(\mathrm{B}\) の座標を求めてください。

【答】点 \(\mathrm{A} ( 3, 3, 30 )\),点 \(\mathrm{B} ( 15, 15, 21 )\)
実際どのように立体四角形を作ったのでしょう。下図に2例紹介します。
幻想を現実にするにはトリックが必要です。

■ペンローズの贈り物
ここで紹介した立体三角形はペンローズの三角形と呼ばれているものの変形版である。ロジャー・ペンローズ(Sir Roger Penrose,1931-)は,ペンローズのタイルなどで有名だが,2020年にノーベル物理学賞を受賞した数理物理学者である(ご存命!)。敬意を表して,立体四角形はペンローズの四角形と呼ぶことにする。
ペンローズの三角形のようなものは,不可能立体【実際に作ることのできる立体でありながら,それを見た人に,あり得ない姿や振る舞いが見えてくる錯覚を生じさせる立体】(杉原厚吉(明治大学))の一種である。エッシャーや安野光雅の絵は有名であるが,実物でそれを作れるとは衝撃である。全国,全世界の杉原ファンと同様に筆者も不可能立体の作成にチャレンジしてみた。
ただし,作成にあたって身近にあるものを加工しないで組み合わせるだけという制限を設けることにした。そうすると途端に難しくなるが,現実の勘違いや錯覚は,たまたまそう見えてしまったものが多いからである。とはいえ,加工なしで,誰もがすぐできるようなものとなると,難しすぎてアイディアが出てこない。今日の話は,その絞り出した結果の紹介である。2023年ころから山根匡史氏(現・共立出版)と中高生に向けた話を一緒に考えていて,上のようなブロックを使ってペンローズの三角形と四角形を作ることに成功した(四角形は山根氏による)。上述したカプラを模したブロックの立体の図はすべて山根氏による描画である。ここに謝意を表したい。
※「つい考えてしまう数学」の記事一覧はこちら
1970年東京生まれ。早稲田大学理工学部数学科卒業。東京大学大学院数理科学研究科数理科学専攻博士課程修了。現在,明治大学理工学部数学科専任教授。博士(数理科学)。専門は応用数理,特に界面現象の数理解析。実験を採り入れた数学の講義で定評がある。
| 著書: | 『実験数学読本』①・②・③ (日本評論社),『次元解析入門』,『界面現象と曲線の微積分』,『動く曲線の数値計算』(以上共立出版),『大学数学の教則』(ちくま学芸文庫),『公式は覚えないといけないの?』(ちくまプリマー新書),他。 |
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