みなさん,こんにちは。第3回の今回は,記述答案の書き方についてお話しします。
数式の羅列
記述式の答案では,数式だけでなく言葉や図を適切に使うことで,最終結果を得るまでのプロセスを論理的に説明することが大切です。
これを生徒たちに実践させる為には,模範解答例を説明するだけではなく,好ましくない書き方も見せて考えさせることが必要だと考えています。
そんな「好ましくない書き方」の1つは「数式を羅列しただけの答案」です。
例えば
という問題に対して
\(ax^2+ax+1=0\)
\(D=0\)
\(a^2-4\cdot a\cdot 1=0\)
\(a(a-4)=0\)
\(a=0,4\)
\(a=4\)
という解答。まぁ,なんとなく分かりますよ。(苦笑)
でも,それを許していては始まりません。このような答案を書く生徒には
- 自分で作った式には「とすると」
- 理由を表す言葉や数式には「より」「から」「なので」
をつけるよう,まずは(単純化して)指導しています。(解答例はこちら)
論理の表現
次は,少しレベルの高い要求になります。例えば
という問題の(3)に対して,次の解答はどうでしょうか?
この値が実数となるためには
これを満たす自然数 \(k\) の中で最小のものは,\(l=1\) のときの \(k=12\) である。
この答案を生徒が書いてきても,私は減点しませんが,難関大や数学科を目指す生徒には注意します。
さて,どこが「好ましくない」か分かりますか?
数学の問いに対する答えは,必要十分条件であることが原則です。
例えば「方程式 \(x^2=1\) を解け」という問いに対して,「\(x=1\)」とだけ答えられたら「他にもあるよ!」と言いたくなりますし,「\(x=\pm 1,i\)」などと答えられたら「多すぎるよ…」と言いたくなります。
したがって,解答プロセスにおいても「それが必要十分条件である」ことを説明するべきです。それなのに,上の解答は
という表現を使っているのです。
一般的に「\(p\) となるためには \(q\) であればよい」という表現は,「\(q\) が \(p\) の十分条件である」ことを意味します。つまり「\(p \Longleftarrow q\)」ということです。
北海道の知人に「今度,北海道に行くんだけど,どこを観光するべきかな?」と聞いて,「札幌だけ見ればいいよ」と言われたら,「(他も見に行きたいなぁ…)」ってなりませんか?
「であればよい」というのは,他の可能性を考えていない表現であり,つまり十分条件を表すのです。
よって,上の解答例は,せっかく必要十分条件を求めているのに,わざわざ「これは(必要十分でなく)十分条件です!」という宣言をしている解答と読めてしまうのです。
こんな書き方をせずに
とする方が論理が明確です。
なお,上記のような文脈で「条件」と書かれたら,「必要十分条件」のことと解釈するのが慣習だと思います。それが気持ち悪く感じる人は「この値が実数となるための必要十分条件は」と書くことをオススメします。(解答例はこちら)
論理表現の「矢印の向き」とその言い回しを整理しておくと
\(p \Longrightarrow q\)
- \(p\) は \(q\) であるための十分条件である
- \(q\) は \(p\) であるための必要条件である
- \(p\) ならば \(q\) である
- \(p\) のとき \(q\) である
- \(p\) となるためには \(q\) でなければならない
\(p \Longleftarrow q\)
- \(p\) は \(q\) であるための必要条件である
- \(q\) は \(p\) であるための十分条件である
- \(p\) となるためには \(q\) であればよい
\(p \Longleftrightarrow q\)
- \(p\) は \(q\) であるための必要十分条件である
- \(p\) と \(q\) は同値である
- \(p\) となるのは \(q\) のときである ……(*)
などがあります。
なお,(*)は「\(q\) のとき \(p\) となる」と同じだから「\(p \Longleftrightarrow q\)」を意味しないと主張する人もいます。これは,英語表現の「if and only if」に引っ張られて「\(p\) となるのは \(q\) のときであり,かつ,そのときに限る」と書くことが必要十分条件を表す正しい表現であり,その為,「\(p\) となるのは \(q\) のとき」は「\(p \Longleftarrow q\)」を意味するという背景もあるようです。
しかし,例えば「\(a=\sqrt{ 2 }\) のとき \(a\) は無理数である」と「\(a\) が無理数となるのは \(a=\sqrt{ 2 }\) のときである」が同じとは思えません。前者は真ですが,後者は偽です。
また他にも,「\(x^2=1\) となるのは \(x=1\) のときである」と言われたら違和感があります。「\(x^2=1\) となるのは \(x=\pm 1\) のときである」の方がしっくりきますよね!?
日本語では「\(p\) となるのは \(q\) のとき」で必要十分条件を意味すると捉える方が自然です。
第3回は以上になります。他にも書きたいことはあるのですが,文字数を考えてこの辺にしておきましょう。(笑)
自分は生徒たちに数学の知識を覚えてほしいのではなく,論理的に考え,論理的に表現する力を数学を通して鍛えてほしいのです。そして,それが目前の大学入試においても重要な力であると考えています。
それではまた次回をお楽しみに♪
宇都宮北高校,東北大学理学部数学科卒。
2006年度から代々木ゼミナールの講師となり,現在は新宿本部校と札幌校に出講しています。対面・映像の授業の他にも,テキスト・模試・解答速報の作成なども行っています。
もっと毒をはいている大山を見たい方は,X(旧Twitter)をどうぞ!→ @dan_oyama_0206
《著書》
・『全国大学入試問題正解』(旺文社)解答執筆(京大,一橋大,東北大など)
・『整数分野別標準問題精講』(旺文社)
・『全レベル問題集 3 』(旺文社)
・『全レベル問題集 5 』(旺文社)
・『大山壇の基本から身につける計算力IA』(KADOKAWA)
・『大山壇の基本から身につける計算力IIB』(KADOKAWA)
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