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- 【ICT教育のイマ】デジタル教科書のキソ・キホン④…
前回と前々回では、指導者用デジタル教科書の使い方について話をしてきました。
今回からは、今注目を集めている学習者用デジタル教科書について、お話をしていきたいと思います。
急速に普及が進む学習者用デジタル教科書
以前から導入が進んでいた指導者用デジタル教科書に対して、学習者用デジタル教科書はここ数年で急激に学校現場への普及が進みました。その契機となったのは、令和3年度に文部科学省が開始した、「学習者用デジタル教科書の普及促進事業」です。
この事業で、全国の約4割の学校で何らかの教科のデジタル教科書が導入されました。さらに令和4年度には、前年度の結果を受け、特に高い効果が期待できる英語をすべての学校に導入すると同時に、一部の学校に対しては2教科目のデジタル教科書も導入されました。令和5年度についても同じ規模で事業が継続される予定です。
文部科学省は令和6年度を学習者用デジタル教科書の本格導入の最初の契機と位置づけており、これらの実証研究で出てきた課題や事例を整理し、令和6年度からは正式に英語の学習者用デジタル教科書の導入に踏み切りたい意向です。そして、英語の次に導入を検討しているのが算数・数学と言われており、早ければ令和7年度にも算数・数学の学習者用デジタル教科書の無償供与が開始される可能性があります。
学習者用デジタル教科書の導入をめぐる議論の経緯
ではなぜ、文部科学省はこれほど学習者用デジタル教科書の導入を急ぐのでしょうか?
ここで、学習者用デジタル教科書の制度化をめぐる経緯をふり返ってみたいと思います。
◆ポイント1:学習者用デジタル教科書の制度化に向けた議論は2015年に開始
学習者用デジタル教科書制度化に向けた議論は、2015年に始まりました。それ以前にも、児童生徒の学びを質・量両面から向上させるために、学びの手段や学習環境としての ICT 活用のあり方についての検討は進められていました。しかし、本格的にデジタル教科書の制度化に向けての議論が始まったのは、2015年から始まった「デジタル教科書の位置づけに関する検討会議」が最初となります。この会議では、紙の教科書を前提にして定められている教科書制度を、いかにしてデジタルに拡張するかという点が主に議論されました。
教科書は「学校での使用義務がある」「著作物を無許諾で掲載できる(※)」など、通常の図書や教材にはない特例を法律上認められています。将来的にデジタル教科書を紙の教科書に代えて使用できるようにするためには、これら紙の教科書に対して定められている法律や規定をデジタル教科書にも拡張する必要がありました。それらを整理し、まとめたのが、2016年に出された「「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議 最終まとめ」となります。
(※教科書補償金制度に則った掲載補償金の支払いが必要です)
◆ポイント2:会議での検討を経て、2019年から制度上のデジタル教科書を発行開始
上記の最終まとめを受け、関連する法律等の改正が行われ、2019年からは教科書の代わりにデジタル教科書を教育課程の一部または全部において使用することが可能になりました。ただし、急速なデジタル化については反対する意見も多く、当初は、健康等への影響も鑑み、通常学級では「学習者用デジタル教科書の使用を各教科等の授業時数の2分の1に満たないこととする」という制限付きのスタートとなります(※後にこの制限は撤廃されます)。
正式に制度として認められたことを受け、各教科書発行者では、それまで発行していた指導者用デジタル教科書に加えて、学習者用デジタル教科書の発行を開始します。しかし、発行当初は、学習者用端末や学校のICT環境の整備が遅れていたこともあり、あまり学校への導入は進みませんでした。
そんな中、文部科学省は、学校での児童生徒一人一台端末の整備に向けて、GIGAスクール構想を開始します。しかし、これも当初は「2022年度末までに3クラスに1クラス分程度」の整備を目指すというものでした。
◆ポイント3:新型コロナウイルスによる一斉休校を受けて、GIGAスクール構想が加速
その状況を大きく変えるきっかけになったのが、2020年の新型コロナウイルスによる一斉休校です。一斉休校により、学びの断絶が起きてしまった事態を重く受け止めた文部科学省は、休校時にもオンライン授業等で学びを継続できるようにするため、GIGAスクール構想の大幅な前倒しを図ります。結果、2021年度末までに実に98.5%の自治体で整備が完了するという、かつてない速度での端末の普及が実現しました(参考)。
しかし、端末が整備されても、そこで使う教材がないと活用は進みません。そこで、インターネット接続により学校からでも家庭からでも利用ができる学習者用デジタル教科書に注目が集まることになったのです。
◆ポイント4:学びの保障のためのシステム(学習eポータル、MEXCBT)と、教材(学習者用デジタル教科書)の整備
かねてから2024年度(令和6年度)を「学習者用デジタル教科書の本格導入の最初の契機」と位置づけていた文部科学省は、これを期に本格導入に向けた準備を加速させます。それが2021年度に実施された「学習者用デジタル教科書普及促進事業」です。本格導入に先駆けてデジタル教科書の試験導入を行うことで、現場への普及を図ると同時に、デジタル教科書の効果・影響・課題などの検証を行うことを目的としていました。この事業は、2022年度も「学びの保障・充実のための学習者用デジタル教科書実証事業」および「GIGAスクール構想推進のための学習者用デジタル教科書活用事業」として、さらに対象を拡大して実施されました。2022年度の結果はまだ公開されていませんが、2021年度の実証事業の結果については報告書や実践事例集の形で公表されています。
このようにして、オンライン授業等でも自宅で利用できる環境(学習者用端末)と教材(デジタル教科書)の整備は進みました。しかし、それだけでは実際に子ども達が学習内容を理解しているのかを評価することができません。そこで、文部科学省では、児童生徒に問題を配信し、評価することができる「学びの保障オンライン学習システム(MEXCBT:メクビット)」と、MEXCBTの入り口となる学習eポータルの整備を進めています。文部科学省としては、今後学習eポータルを様々な教科書・教材と連携させ、そこから得られる学習履歴データを分析・活用することで、一人一人に対応した学習計画を立てたり、それぞれの理解度に応じた学習コンテンツを提示したりといった、個別最適な学習への活用を目指したい意向ですが、実現に向けてはまだまだ課題も多く、今後の検討が待たれます。
学習者用デジタル教科書の課題
しかし、一方で学習者用デジタル教科書については、まだまだ課題も多くあります。
- ①導入に関する課題
学習者用デジタル教科書の導入にあたっては、使用する先生や児童生徒分のアカウントの登録が必要となります。また、その登録はデジタル教科書を閲覧するビューアごとに行う必要があり、このことが学校現場の負担となっています。
- ②学校のICT環境に関する課題
現在使われている学習者用デジタル教科書は、クラウド配信方式というインターネット経由で閲覧する形式が主流です。そのため学校の環境によっては一度にアクセスすると動作が遅くなるなどの問題が発生する場合があります。
- ③活用に関する課題
上記①にも書いた通り、現在はデジタル教科書のビューアが会社によって異なり、ボタンのアイコンや操作の仕方も異なるため、教科によってできることややり方が違うという問題があります。
また紙の教科書が手元にある中で、紙とデジタルをどう使い分けるのか、どのように活用すれば効果的なのか、児童生徒への健康に対する影響はないのかなど、活用に対する疑問や不安の声も多くあります。
それぞれの課題については、文部科学省や教科書会社でも認識をしており、解決に向けた取り組みも始まっています。例えば①については、ビューアが違っても同じフォーマットを使って登録ができるようにしたり、GoogleやMicrosoftやAppleのアカウントなどとのシングルサインオン連携をしたりといった取り組みが進んでいます。
また、②や③については、学校の利用環境を想定し、表示を高速化したり、各教科で共通のメニューを搭載したりするような取り組みも試験的に始まりつつあります。さらに、実際の活用の事例や効果・影響などに関する検証結果も、文部科学省や各教科書発行者のHPなどで公開されています。東京書籍でも、こちらのページで様々な教科の実践事例を見ることができますので、是非参考にしてみてください。
今回は、なぜ今急激に学習者用デジタル教科書の普及が進んでいるのか、その背景や経緯についてお話をしました。
次回は、学習者用デジタル教科書を使ってどのようなことができるのかについてお話したいと思います。
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