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2022.05.18

【ICT教育のイマ】「べき論」からの脱却 ―算数・数学を事例として― ②

常葉大学
講師 三井一希先生

1 「べき論」からの脱却

 1人1台端末を活用した授業を教師が考えるうえで障害になるのが「べき論」である。

 計算は紙に書いてやるべき、自分の考えをしっかりつくってから友達と交流するべき、板書はノートに書き写して頭に入れるべきなどである。特に算数・数学の授業ではこの傾向が強いように感じる。たしかに、これまでの教室環境では、これらの学習方法が効果を上げたのかもしれない。また、それ以外に方法がなかったのかもしれない。しかし、GIGAスクール構想により教室環境が大きく変化した。デジタル環境の中にアナログがある教室では、これまでの「べき論」から脱却し、デジタルの可能性にも目を向けて授業をつくっていく必要がある。

 例えば、中2数学「三角形の合同」では、合同条件を使って証明問題を解く学習がある。多くの教師は、証明問題はノートに書くべきだと考えるのではないだろうか。ところが、ある中学校では、Google Jamboardを使って証明問題を解いている(図1)。

【ICT教育のイマ】「べき論」からの脱却―算数・数学を事例として―②01
図1 端末を使って証明問題を解く生徒

 Google Jamboardはクラウド上のサービスであり、共同編集ができたり、自分の考えや他者の考えを共有できたりする。証明で行き詰まったときに他者の考えを閲覧することで、ヒントをもらうことも可能となる。また、教師も手元の端末で各生徒の進捗や理解度を把握することができる。そして、何よりデジタルなので修正が簡単にできる。これまではノートに書いた文字を何度も消して書き直す作業が必要であったが、デジタルではそのような必要はない。

 このような事例を出すと、デジタルで取り組むことで生徒は理解できるのか、ということが教師の心配事の一つになるだろう。しかし、ここで紹介した授業を行っているベテラン教師によると、証明問題をデジタルで解くことで、生徒の理解力が落ちた事実はないとのことである。むしろ、過去の授業の情報にすぐにアクセスできるようになったり、他のクラスの生徒の考えにも触れられるようになったりと学びの可能性が広がっているとのことである。何よりデジタルだと修正が楽なので、思考することにより多くの時間と労力をかけられるようになったことをメリットとして挙げていた。

 板書の記録方法にも「べき論」からの脱却が求められる。これまで、教師の板書を保存する方法はノートに書き写すことであった。これ以外の手段はなかった。だから、全員が取り組み、日本中の教室で当たり前のように板書をノートに書き写すという行為が行われてきた。しかし、板書をノートに書き写すことは最も効果的な学習方法なのだろうか。板書を書き写すことに困難を抱えていた児童生徒も当然いて、これまで苦しさを感じていたはずである。

 板書をノートに書き写すことの主たる目的は、授業内容の記録や復習のためである。そうであるならば、板書を撮影する方法でもこの目的を達することができるのではないだろうか。

 図2はある小学校6年生の学級の授業終盤の様子である。この学級の担任が児童に指示していることは、「自分にとって最も復習しやすい方法で板書を残しなさい」である。ノートに鉛筆で書き写す児童がいて、キーボードを使って板書内容を打ち込んでいく児童がいる。もちろん、写真のように端末のカメラを使って板書を撮影する児童がいる。これまで、ノートに書き写すという選択肢しかなかった教室に、新たな選択肢が加わったことになる。この環境を有効に活かすためにも、教師が「べき論」から脱却し、児童生徒が選択できる場面を与えるようにしたい。

【ICT教育のイマ】「べき論」からの脱却―算数・数学を事例として―②02
図2 板書を写真で保存する児童

2 算数・数学における授業づくりで意識すること

 算数・数学は数量や図形についての感覚を豊かにすることが重要である。そこで、児童生徒に直接体験を行わせたい場面、実物を提示したほうがいい場面では、これまでどおり体験や実物の提示を重視したい。ここはデジタルに置き換えてはならない場面である。

 例えば、\(1m\)の長さを提示する場面では実際に\(1m\)の紙テープを提示したほうがよい(図3)。水のかさの学習では、\(1dL\)マス10杯分が\(1L\)になることを実際の体験を通じて児童に実感させたい。

【ICT教育のイマ】「べき論」からの脱却―算数・数学を事例として―②03
図3 \(1m\)の紙テープを提示する教師

 一方で、表やグラフを作成する場面、プログラミングを体験しながら論理的思考力を身に付けさせたい場面では端末の活用が有効である。デジタルのよさは試行錯誤が容易なことである。この数値を入れれば結果がどうなるのか、どの変数を操作すれば意図した結果が得られるのか、を検討する場面では端末の活用が特に有効であるといえる。

 熊本市教育委員会が作成している「e-net」(http://www.kumamoto-kmm.ed.jp/)には端末で活用できるデジタル教材が多数公開されている。算数では「等積変形」「展開図」「ヒストグラム」等のコンテンツがあり、児童が手元で操作しながら学習できる。数学では、「中心角と円周角の関係」「振り子の長さと周期の関係」(図4)等のコンテンツがとても魅力的である。

【ICT教育のイマ】「べき論」からの脱却―算数・数学を事例として―②04
図4 熊本市教育委員会作成のe-netコンテンツ

 デジタルコンテンツは、これまでは黒板前に提示しながら教師が操作して児童生徒に示すことが多かったが、これからは児童生徒が自分で操作しながら試行錯誤をすることができる。また、e-netはコンテンツにアクセスして使うだけなので、授業への導入のハードルもそう高くはないだろう。

 新たな教室環境のもと、教師が「べき論」から脱却し、1人1台端末を活用した学習者主体の授業が多くの教室で展開されていくことを願っている。

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