特集記事(小中学校)

中学校

2024.03.05

【#20】若手先生の困り事相談 ~データの活用における指導を考える④~

「佐藤寿仁先生と考える」では、授業づくりのポイントや教科書の使い方などについて、連載していきます。現場の先生方は、大変お忙しくて教材研究する時間が取りにくいところかと思います。少しお時間をいただき、立ち止まって一緒に考えてみませんか。(佐藤寿仁)

 今回は、若手の先生からいただいた困り事について、考えてみたいと思います。

データの活用における指導を考える④ 〜学習評価について〜

【#20】若手先生の困り事相談 ~データの活用における指導を考える④~01

Q 学期末が近づき、学習評価としてのテストづくりやレポートなど準備をしようと思います。データの活用でのテストの作成でのポイントを教えてください。

 データの活用においても、3つの観点をバランスよく評価することは大切です。特に、批判的に考えることなどを重視して評価問題の作成やレポート課題を設定するとよいでしょう。

 学期末が近づき、単元テストや期末テストなどの評価問題の作成に取り組まれている先生が多いのではないでしょうか。今回は、データの活用における評価問題の作成やレポート課題についてアイディアを紹介します。問題作成の基になる題材は様々あると思います。今回は教科書を活用して考えてみます。
 1年生の教科書、「新しい数学1」(以下、「教科書」と記す)のデータの活用は単元の前半には、あるサッカーチームについて「現在のチーム」と「優勝時のチーム」について比較することで分析を進めます。1500m走の記録をもとに、代表値やヒストグラムを用いて調べながら統計的問題解決を促します。教科書p.231までに、1500m走のデータをヒストグラムや度数折れ線などに整理し、それらを用いて現在のサッカーチームの状況について結論を述べます。教科書p.231の最後に、下のような“はるかさんの吹き出し”があります。

【#20】若手先生の困り事相談 ~データの活用における指導を考える④~02

教科書p.231に掲載されている“はるかさんの吹き出し”

 みなさんは、ここをどのように扱っているでしょうか。これまで1500m走のデータを用いてきたのですが、ここでの「ほかの種目」とは何でしょうか。実は、単元の導入にあたる教科書p.222には選手の体力に関するデータを下のように紹介する場面があります。

【#20】若手先生の困り事相談 ~データの活用における指導を考える④~03

教科書p.222に掲載されている選手たちの体力に関するデータの一部

 ここには、1500m走以外にも50m走、20mシャトルランのデータもあることが示されています。“はるかさんの吹き出し”は、単元を通して調べてきた1500m走だけでなく、他の種目でも調べて確認しようとする多面的な見方について促しているのです。しかし、データは一部しか掲載されていないことから、授業では扱うことができないとしている先生がいらっしゃるのではないかと思います。実はDマークコンテンツの1年生には、データだけでなく、度数分布表やヒストグラムを作ることができるようにデジタルコンテンツが用意されています。ここでは他の種目のデータが掲載されているだけでなく、度数分布表やヒストグラムなども簡単に作成することができます。生徒は1人1台端末ですので、授業でこのサイトを個別またはグループで用いて統計的な問題解決に取り組む場面も設定することができます。生徒だけでなく、ぜひ先生も操作をし、生徒と一緒に考えてほしいです。

Dマークコンテンツ「サッカーチームのデータを分析しよう」
https://tsho.jp/03j/m1/

 このサイトでのコンテンツを使うと、例えば、20mシャトルランのデータを用いて、下のような度数分布をつくることができます。

【#20】若手先生の困り事相談 ~データの活用における指導を考える④~04

Dマークコンテンツを利用して作成した度数分布表

 この度数分布表を使うと、次のような評価問題を作成することができます。

□評価問題例1

 授業では、あるサッカーチームの現状を明らかにするために、「現在のチーム」と「優勝時のチーム」の1500m走の記録で比較をして考えましたね。はるかさんは、他の種目でも比較してみるとよいのではないかと考え、20mシャトルランの記録を下のような度数分布表にまとめ、次のように考えました。

20mシャトルランの記録をまとめた度数分布表
<はるかさんの考え>
 20mシャトルランの記録がよい方が体力のあるチームとすると、110回以上の度数は、「現在のチーム」と「優勝時のチーム」の両方とも9人であった。よって、この2チームは同じぐらいの体力といえる。

◎問題

 はるかさんの考えのように、110回以上の階級の度数の合計はともに9であるが、この9を用いて比較してもよいでしょうか。あなたの判断とその理由を書きなさい。

◎解答欄

  • 110回以上の階級の度数の合計である9どうしを比較してよい。
  • 110回以上の階級の度数の合計である9どうしを比較するのはよくない。
(理由)

□評価問題例2

 リード文までは同じ。

◎問題

 はるかさんの考えのように、110回以上の階級の度数の合計はともに9であるが、ここでは、この9を用いて比較するのはよくありません。その理由を書きなさい。

◎解答欄

(理由)

□評価問題例3

 リード文までは同じ。

◎問題

 はるかさんの考えのように、110回以上の階級の度数の合計はともに9であるが、ここでは、この9を用いて比較することはよくありません。110回以上の階級について、どのようにすれば比較することができるのか説明しなさい。

◎解答欄

(理由)

 いずれの評価問題も、「相対度数の必要性と意味を理解しているかどうかをみる」という趣旨ですが、評価問題1、2については批判的な考察として評価することも考えられます。また、評価問題3は、評価・改善する際の数学の態度にもつながるとも考えられます。
 このように教科書に掲載されていることを用いて、評価問題を作成することもできます。この問題は、これまでの授業で生徒が進めてきた1500m走での分析をさらに進めたものと位置付けることができ、多面的に捉え考えようとする場面としても有効です。評価問題として出題するだけでなく、レポートとしてもよいでしょう。また、授業内で取り上げ、コンピュータを用いて他の種目でも調べ、自分で結論を導くことができるかどうかをみるパフォーマンスでの評価も考えられます。
 自分で題材を考え、評価問題等を作成することもよいのですが、教科書を活用して作成することもできますので、もう一度教科書を読んでみてはいかがでしょうか。

 次回は、データの活用におけるプロジェクト型での統計的問題解決について紹介します。

※参考資料

  • 新しい数学1(東京書籍)
  • Dマークコンテンツ「サッカーチームのデータを分析しよう」
    https://tsho.jp/03j/m1/
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【佐藤寿仁先生 略歴】
岩手県公立中学校で11年、岩手大学教育学部附属中学校で6年教職を務め、岩手県岩泉町教育委員会指導主事、国立教育政策研究所学力調査官・教育課程調査官を経て、令和3年度より岩手大学教育学部准教授。学校教育の充実や現職教員の職業能力開発の支援から、全国調査など国の教育のアセスメントに関わり、これからの教育について幅広く研究を進めている。

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