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中学校

2024.02.20

【#19】若手先生の困り事相談 ~データの活用における指導を考える③~

「佐藤寿仁先生と考える」では、授業づくりのポイントや教科書の使い方などについて、連載していきます。現場の先生方は、大変お忙しくて教材研究する時間が取りにくいところかと思います。少しお時間をいただき、立ち止まって一緒に考えてみませんか。(佐藤寿仁)

 今回は、若手の先生からいただいた困り事について、考えてみたいと思います。

データの活用における指導を考える③ 〜箱ひげ図について〜

【#19】若手先生の困り事相談 ~データの活用における指導を考える③~01

Q データの活用の領域で箱ひげ図の指導は、自分が学んだ経験も無いため不安です。箱ひげ図を用いた統計的問題解決の授業について、指導のポイントを教えてください。

 箱ひげ図を用いて説明することができるようにするために、生徒の反応やつまずきを想定し、それを活かした授業展開を考えます。授業では、先生も生徒と一緒に統計的な問題解決を取り組みましょう。

 前回は、度数折れ線を用いた統計的な問題解決を例に、説明する力を付けるためのポイントを紹介しました。今回は、箱ひげ図について取り上げます。現行学習指導要領から新しい学習内容として含まれたため、その指導に不安を抱く先生は多いと考えます。「生徒の反応を想定した授業づくりを」とお話するのですが、先生自身が箱ひげ図をよく知らない、もしくは、箱ひげ図を用いて調べるなどをしたことがないといった経験から不安を持たれる先生もいらっしゃいます。少し前向きに捉えて、よく知らないからこそ、授業では、生徒と一緒に箱ひげ図を用いた統計的な問題解決に取り組んでみませんか。

 さて、箱ひげ図の理解について、どのような課題があるのでしょうか。令和5年度全国学力・学習状況調査、調査問題大問7をみてみましょう。この問題は、「イチョウの木の大部分の葉が黄色になる最初の日を黄葉日が年々遅くなってきている傾向にあることをデータを整理した箱ひげ図を根拠に説明する」というものです。調査したデータの数が多いため、下の図のようにデータを4つに分けて箱ひげ図に表し、データの分布をみて説明します。設問は、「『2006年〜2020年の黄葉日は、1991年〜2005年の黄葉日より遅くなっている傾向にある』と主張することができます。そのように主張することができる理由を、1991年〜2005年と2006年〜2020年の2つの箱ひげ図の箱に着目して説明しなさい。」です。第1四分位数などの5数要約が掲載されており、箱ひげ図と関連させながら考えることができるようになってます。

【#19】若手先生の困り事相談 ~データの活用における指導を考える③~02

図 令和5年度全国学力・学習状況調査中学校数学大問7

https://www.nier.go.jp/23chousa/23chousa.htm

 4つの箱ひげ図を見ると、年が経過するごとに右にずれているように見えます。このように一目でわかることは箱ひげ図に整理することのよさです。しかし、問題文には“箱に着目して”とあります。箱ひげ図では、データの50%を箱で表し、箱の横の長さや位置で分析をします。ヒストグラムは階級を示す横軸とその度数を示す縦軸の2軸で表現されますが、箱ひげ図は横軸のみですので、この横軸での箱の位置に着目することはとても大切です。この設問の正答率は33.9%、無解答率は22.5%でした。誤答については、「1991年〜2005年の箱の長さよりも2006年〜2020年の箱の長さの方が短く、データが集まっているから」と記述した解答があり、その割合は10.1%でした。これは箱ひげ図の箱の横の長さにのみ着目している記述で、箱の位置について触れられていません。こうした生徒の反応は実際の授業でもみられると予想されます。授業では「黄葉日が遅くなっている傾向にある」ことの根拠について妥当性があるかどうかを、生徒どうしで検討する場面を設け、その説明について洗練させていくことが大切です。

 【#17】では、PPDACをもとに箱ひげ図の単元構想や学習の過程を考え、統計的探究的プロセスを重視した指導について紹介しました。箱ひげ図の指導について、心配される先生がいらっしゃるとは思いますが、全国学力・学習状況調査の結果を参考にして生徒のつまずきを把握し、PPDACサイクルを意識した単元の指導計画を構想してみましょう。そして、先生も生徒と一緒になって、授業での統計的な問題解決を取り組んでみましょう。

 次回は、教科書を活用したデータの活用の授業づくりについて紹介します。

※参考資料

【佐藤寿仁先生 略歴】
岩手県公立中学校で11年、岩手大学教育学部附属中学校で6年教職を務め、岩手県岩泉町教育委員会指導主事、国立教育政策研究所学力調査官・教育課程調査官を経て、令和3年度より岩手大学教育学部准教授。学校教育の充実や現職教員の職業能力開発の支援から、全国調査など国の教育のアセスメントに関わり、これからの教育について幅広く研究を進めている。

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