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中学校

2024.02.16

【#18】若手先生の困り事相談 ~データの活用における指導を考える②~

「佐藤寿仁先生と考える」では、授業づくりのポイントや教科書の使い方などについて、連載していきます。現場の先生方は、大変お忙しくて教材研究する時間が取りにくいところかと思います。少しお時間をいただき、立ち止まって一緒に考えてみませんか。(佐藤寿仁)

 今回は、若手の先生からいただいた困り事について、考えてみたいと思います。

データの活用における指導を考える② 〜統計的な問題解決場面の設定〜

【#18】若手先生の困り事相談 ~データの活用における指導を考える②~01

Q データの活用の授業では、生徒が興味を持って参加し、話し合いの場面も活発です。しかし、この単元での資質・能力は育成されているかどうか不安です。資質・能力をつけるために、授業での工夫を教えてください。

 計的に問題解決する際の説明では、生徒の理解を大切にするために、説明を検討し洗練させる活動が大切です。そのために、授業の準備では、生徒の反応を想定し授業展開を考えます。

 データの活用の単元において、整理したヒストグラムや箱ひげ図を用いてその傾向を説明し、問題解決することがあります。数学的に説明する力をつけるためには、生徒の反応を想定し、説明を不十分なままにしないことが大切です。

 中学校学習指導要領(平成29年告示)解説数学編には、3年間のデータの活用の学習を通して、下のような資質・能力の育成を目指して指導を行うこととあります。

  • データの分布や母集団の傾向に着目して,その傾向を読み取り批判的に考察し判断すること

 この資質・能力は、授業では主にデータを整理したヒストグラムや箱ひげ図を用いて傾向を捉え説明する場面にあたるでしょうか。ここで、統計的問題解決の課題について全国学力・学習状況調査で確認してみましょう。例えば、令和3年度調査問題大問8を取り上げます。この大問は、ある市のキャンプ場に行こうとしている桃花さんが、キャンプ場での過ごしやすさを事前に考えるために、複数のデータを用いて調べようとしています。普段と違った場所に泊まることを考えれば、服装などの準備は大切です。このような文脈の中で、下の図のような度数折れ線(度数分布多角形)を用いて、傾向を捉え説明する問題です。具体的には、キャンプ場での気温差(1日の最高気温と最低気温の差)を日照時間で2つのグループに分けた比較となります。

【#18】若手先生の困り事相談 ~データの活用における指導を考える②~02

図 令和3年度全国学力・学習状況調査中学校数学大問8(3)

https://www.nier.go.jp/21chousa/21chousa.htm

 この設問では、「日照時間が6時間以上の日は、6時間未満の日より気温差が大きい傾向にある」 と主張することができる理由を説明させるものです。授業では、生徒はどのように説明することが想定されますか。授業で話し合いの場面を設けると、様々な意見が出され、盛り上がるのではないかなと思います。この問題の正答率は11.2%です。また、無解答は31.8%であり、その高さに驚かされました。では、統計的に説明することについて、この問題での生徒の困り感を考えてみましょう。

◇分布の様子を捉えること

 度数折れ線のよさは、分布を形として捉えることができること、また、そのことで比較しやくなることです。図の度数折れ線は、その形はほぼ同じように見えます。ところが、この形に着目して左右のズレを捉えるのではなく、最大値や最小値、または最頻値(度数が最大の階級値)を用いた解答がみられます。このような生徒は度数折れ線から読み取れる分布に着目していないといえます。

◇データを整理した結果を的確に捉えること

 この問題では、「6時間以上の度数折れ線のほうが気温が高いから」のような解答例が報告されています。図の横軸にある気温をみて、そのように記述したかもしれません。この問題の文脈を理解していないかもしれません。「問題文をよく読みなさい」と指導するのではなく、「度数折れ線のどこをみると、そう判断できるの?」のように問題の文脈を意識させるような指導をしたいですね。

◇何を書けばよいかわからない

 無解答の生徒が約3割います。学級の人数で考えると・・・、けっこう多いと思います。このような生徒は、授業での話し合う場面において参加の様子はどうでしょうか。データを整理したヒストグラムや箱ひげ図を作ることができても、それをどのようにみればよいのか、どのように解釈すればよいかなどで困っているかもしれません。

 私はよくデータの活用の授業を参観するのですが、傾向を捉えて説明する場面においては、よく生徒達が話し合っており、授業が盛り上がっているように見えます。指導される先生もそのような様子をみて、生徒の頑張りを認めます。しかし、テストなど行ってみると期待した結果にならず、見えていた生徒の姿とのギャップを感じるのではないでしょうか。

 この問題を授業で扱うならば、説明すべき理由について「右にあるから!」と解答する生徒が予想されます。間違っているとは言い切れないですよね。しかし、比較する表現として、「何が何より」といった対象を明らかにすることや、それは、度数折れ線をどのように見るとわかることなのかといったことを教師が問い返すことで、生徒は自分達の説明を吟味するようになります。教師は、生徒の数学的な考えの表出に耳を傾けるとともに、それが数学的に十分なものであるのか、不十分であれば何が足りないかなどについて、留意して受け止めることが大切です。そのためには、それを授業前に想定することが必要です。単に正誤を伝えるだけでなく、その説明で誰もが理解できるかどうか、また、本当にそれは正しいことを表現しているかどうかなど、説明の妥当性について、もう一度話し合う場面を設けることも考えられますね。

 次回は、箱ひげ図の読み取りについて、大切にしたいことについて紹介します。

※参考資料

【佐藤寿仁先生 略歴】
岩手県公立中学校で11年、岩手大学教育学部附属中学校で6年教職を務め、岩手県岩泉町教育委員会指導主事、国立教育政策研究所学力調査官・教育課程調査官を経て、令和3年度より岩手大学教育学部准教授。学校教育の充実や現職教員の職業能力開発の支援から、全国調査など国の教育のアセスメントに関わり、これからの教育について幅広く研究を進めている。

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