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中学校

2024.02.08

【#17】若手先生の困り事相談 ~データの活用における指導を考える①~

「佐藤寿仁先生と考える」では、授業づくりのポイントや教科書の使い方などについて、連載していきます。現場の先生方は、大変お忙しくて教材研究する時間が取りにくいところかと思います。少しお時間をいただき、立ち止まって一緒に考えてみませんか。(佐藤寿仁)

 今回は、若手の先生からいただいた困り事について、考えてみたいと思います。

データの活用における指導を考える① 〜単元の指導を考える〜

【#17】若手先生の困り事相談 ~データの活用における指導を考える①~01

Q これからデータの活用の学習が始まります。どのような準備をすればよいでしょうか。

 統計的探究プロセスの視点で、教師が教科書を読み解き、生徒が進める統計的な問題解決の過程を大切にした単元の指導計画を作成しましょう。

 どの学年においてもデータの活用領域の授業をスタートさせる時期ではないでしょうか。ひとつひとつの授業の準備も大切ですが、この領域の指導では、単元などある程度の時間のまとまりの中で、生徒の統計的問題解決について考え、準備することが大切です。今回は、2年生の教科書、第7章「データを比較して判断しよう」を例に考えていきます。

□統計的探究プロセスをもとに単元の指導計画を吟味する

 中学校学習指導要領(平成29年告示)解説数学編には、各領域における指導の意義が明示されています。データの活用の領域においては、次のように示されています。

  • 日常生活においては,不確定な事象についてデータに基づいて判断する場面が多いので,目的に応じてデータを収集して処理し,その傾向を読み取って判断することが有用であること。

 このことは、生徒が統計的に問題解決する際の一連の過程を重視するものであり、統計的に問題解決する力を養うことを求めています。この過程については、算数、数学の教科書に紹介されています。例えば、小学校算数「新しい算数6(p.189)」、中学校数学「新しい数学1(p.250)」には、下のように掲載されています。

【#17】若手先生の困り事相談 ~データの活用における指導を考える①~02
▲新しい算数6 p.189
【#17】若手先生の困り事相談 ~データの活用における指導を考える①~03
▲新しい数学1 p.250

 これらは、「Problem(問題)→Plan(計画)→Data(データ)→Analysis(分析)→Conclusion(結論)」というサイクルを示しており、統計的探究プロセスといわれています。実際には、両方とも単元が終わってから見るように、単元の最後に掲載されていますので、授業においては児童生徒の統計的問題解決を振り返る際に使用されることが多いのかもしれません。この統計的探究プロセスは、小学校5年生の教科書から掲載されています。小学校学習指導要領において高学年(5、6年生)からこの過程を大切にした統計的な問題解決が大切だとされています。

 では、この統計的探究プロセスを参考にして、中学2年生の第7章「データを比較して判断しよう」について教科書を見てみましょう。事象として、桜の名所の近くにあるコンビニエンスストアの店長さんが、よく売れる商品を調べようとしているものです。花見の時期にどんな商品が売れるのかについて、前もってわかっていることで準備ができます。そのことを調べるためにどのようなデータが必要でしょうか。教科書をただ読むのではなく、生徒が状況を思い浮かべながら考えることが大切です。「どのようなデータがあるとよいでしょうか?」など問うてみることも考えられます。収集したデータをヒストグラムに整理して、データの分布をみようとすると・・・、4つのヒストグラムが並ぶことで、少し読み取りにくいという意見がでるでしょう。「さて、一度に分布を比較する方法はないのでしょうか。」と単元の課題を捉え、学習がスタートします。

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▲新しい数学2 p178、179

 教科書をみると、Problem(問題)→Plan(計画)→Data(データ)→Analysis(分析)まできたような状況ですが、1度に分布を読み取るために何か工夫が必要であるという評価・改善の促しで終わっていますね。そしてこの後、新しい見方である「箱ひげ図」を知る流れになっています。そして、最後にはヒストグラムでは分布を1度に比較することが難しかったけれど、箱ひげ図を用いることでそれが可能になり、商品の販売数の傾向を調べ、店長さんになりきってコンビニエンスストアが花見の時期を目の前に、商品の仕入れについて計画してみるというのも考えられます。Conclusion(結論)にあたる場面です。また、これまでの学習を振り返り、ヒストグラムでは読み取ることが難しかったことが、箱ひげ図を用いることでできるようになることを、実感を伴って理解することができるでしょう。

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▲ヒストグラム
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▲箱ひげ図

 単元の指導計画を作成する際に、教師が統計的探究プロセスである「Problem(問題)→Plan(計画)→Data(データ)→Analysis(分析)→Conclusion(結論)」の目線で教科書を読み解くことが大切です。こうして、1時間の授業のなかだけでなく、単元を通した統計的探究プロセスを大切にした問題解決を実現することができ、そのための単元の指導計画について吟味することができるのです。このことは2年生だけではなく、他の学年にもいえることです。もう一度、単元の指導計画を確認してみましょう。

 次回は、実際の授業での指導場面で、大切にしたいことについて紹介します。

※参考資料

  • 小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編(文部科学省)
  • 中学校学習指導要領(平成29年告示)解説数学編(文部科学省)
  • 新しい算数5下(東京書籍)
  • 新しい算数6(東京書籍)
  • 新しい数学1(東京書籍)

【佐藤寿仁先生 略歴】
岩手県公立中学校で11年、岩手大学教育学部附属中学校で6年教職を務め、岩手県岩泉町教育委員会指導主事、国立教育政策研究所学力調査官・教育課程調査官を経て、令和3年度より岩手大学教育学部准教授。学校教育の充実や現職教員の職業能力開発の支援から、全国調査など国の教育のアセスメントに関わり、これからの教育について幅広く研究を進めている。

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