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中学校

2023.07.17

【#8】若手先生の困り事相談 ~学習評価「思考・判断・表現」を考える~

「佐藤寿仁先生と考える」では、授業づくりのポイントや教科書の使い方などについて、連載していきます。現場の先生方は、大変お忙しくて教材研究する時間が取りにくいところかと思います。少しお時間をいただき、立ち止まって一緒に考えてみませんか。(佐藤寿仁)

 今回も引き続き、若手の先生からいただいた困り事「学習評価」について、考えてみたいと思います。

学習評価の工夫を考える 〜「思考・判断・表現」編その①〜

【#8】若手先生の困り事相談 ~学習評価「思考・判断・表現」を考える~01

Q 「思考・判断・表現」を評価するためには、テストに記述問題を取り入れたいと考えています。問題づくりや採点方法をどうすればよいでしょうか。

 次の2つのポイントを意識してみましょう。

  1. ① 数学的に「何を」説明するのかについて明確にした問題を作成する
  2. ② 「思考・判断・表現」を評価するための基準をつくる

 学習評価の観点の「思考・判断・表現」を評価する際には、学校で作成するペーパーテスト(以下、「テスト」)でも問題として取り上げ、その解答状況で判断することがあります。今回は「思考・判断・表現」について、テスト問題の作成について紹介します。

① 数学的に「何を」説明するのかについて明確にした問題を作成する

 文部科学省が毎年実施している全国学力・学習状況調査(以下、「全国調査」)では数学的に説明することの評価を重視し、記述式の問題が設定されています。学校のテストにも記述問題が取り入れられている先生も増えているようです。「思考・判断・表現」の評価は、計算結果のような答えだけで判断することは難しいので、生徒がどのように考えたかを記述することで確認します。では、記述問題をどのように作題すればばよいでしょうか。それは設定した評価規準に沿って、「何を説明するのか問題なのか」を検討することです。全国調査では、「事柄や事実の説明」「方法や手順の説明」「理由の説明」といった枠組みを設定して、問題が作成されています。これらを参考にするなどして、「何を説明する問題なのか」を明確にして、問題作成に取り組みましょう。

○第1学年「文字式」における作成例

 思考が伴う問題の解答状況を「思考・判断・表現」として評価しますね。そのとき、結果(答え)のみを解答するのであれば、数学的に考えた過程について評価することは難しいと考えます。例えば、第1学年「文字と式」において、「いろいろな整数を,文字を用いた式で表したり,式が表す数を読み取ったりする。(※参考資料)」について評価する問題を作成するとします。第1学年の教科書「新しい数学1」p.83では、小学校算数で学んだ整数、偶数や奇数について捉え直し、文字を用いて表すことを学習します。この学習の到達について確認をするために、下のようなテスト問題例が考えられます。

問題(例)
 \(n\) が整数のとき、\(2n\) は偶数を表しています。
 このことについて、そうたさんとはるかさんは、下のように話し合っています。
そうたさん: 「\(n\) が整数のとき、\(2n\) は偶数を表していることを学習したね。」
はるかさん: 「そうだね。偶数は数字を使っていろいろに表せるけど、文字を使うと\(2n\) で表現できるよね。たくさんあるものを1つの式で表現できるなんて、文字式は便利だね。」
そうたさん: 「うん。もし、2つの続いた偶数を表したいときは、どう表せばいいのかな。」
はるかさん: 「具体的には2、4や16、18などいろいろあるけど、文字を使って簡単に表すことができないのかな。」
 \(n\) が整数のとき、2つの続いた偶数について文字式で表します。下のア〜エのなかに、正しく表現された式があります。それを一つ選びなさい。また、選んだ式が「\(n\) が整数のとき、2つの続いた偶数」を表している理由を説明しなさい。
ア \(2n\),\(2n+1\)
イ \(2n\),\(4n\)
ウ \(2n\),\(2n+2\)
エ \(2n,2m\)
(\(m\)は整数)

 この問題は、「2つの続いた偶数」を文字を用いて表した式を選択するだけでなく、示された文字式の構成を読み取るなどして、的確に表現されていることを説明する問題です。この例では、文字式は選択肢にしていますが、文字式を解答し、その文字式が「2つの続いた偶数」を表す理由を説明するというのもよいでしょう。文字式に表すことを課題とする生徒がいると思います。この問題での評価は、2、3年生の文字式を用いた説明や証明にもつながりますので、生徒にはしっかりとフィードバックしたいものです。この問題は、「理由の説明」としていますので、解答は「ある偶数を基準にして、次にある偶数はそれよりも2大きい」のような関係に着目した根拠の記述を確認できれば、正解としてよいでしょう。このような記述問題を通して、生徒が数学的に考察していることを評価していくことが大切です。適切に表現した文字式を選択するだけの問題では、生徒の理解の状況をみとることは難しいです。生徒の見方や考え方について問う問題を、積極的にテスト問題に取り入れましょう。

 このような記述問題では、「具体的に数をあてはめて確認できるから・・・」のような解答も想定できますね。そのような解答については、どう評価するとよいでしょうか。次回『②「思考・判断・表現」を評価するための基準をつくる』でお話しましょう。

※参考資料 東京書籍 令和3年度 年間指導計画作成資料

https://ten.tokyo-shoseki.co.jp/text/chu/list/keikaku.html

【佐藤寿仁先生 略歴】
岩手県公立中学校で11年、岩手大学教育学部附属中学校で6年教職を務め、岩手県岩泉町教育委員会指導主事、国立教育政策研究所学力調査官・教育課程調査官を経て、令和3年度より岩手大学教育学部准教授。学校教育の充実や現職教員の職業能力開発の支援から、全国調査など国の教育のアセスメントに関わり、これからの教育について幅広く研究を進めている。

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