【問1】1円玉を1円玉のまわりに沿って,すべらないように転がします。元の位置に戻るまで何回転するでしょうか。

【ヒント】1円玉の半径は1です。直線上をすべらないように転がすと,1回転すると \(2\pi\) だけ進みます。

【答】2回転。

ヒントがヒントになっていなかったかもしれませんね。半回転すると直線上を \(\pi\) だけ進みます。

長さ \(2\pi\) の線分を半径1の円の周りにぐるっと貼り付けるように曲げると,直線上で \(\pi\) だけ進んだとき,1円玉は逆さまに向いていますが,円の周の上では(逆さまでなく)もとと同じ上を向いているので,そこで1回転したことになるのです。
転がす円も動かさない円も同じ周長だから,1回転!と考えませんでしたか?
なぜ勘違いがおきたのでしょうか。上の説明でもまだ腑に落ちないかもしれません。別の状況を考えてみましょう。
【問2】半径1の円を半径2の円のまわりに沿って,すべらないように転がします。元の位置に戻るまで何回転するでしょうか。

【答】3回転。

ちょっと難しかったですね。でも図をみると納得!?
【問3】\(n\) を自然数として,半径1の円を半径 \(n\) の円のまわりに沿って,すべらないように転がします。元の位置に戻るまで何回転するでしょうか。

【答】いきなり半径 \(n\) だとわからないかもしれないので,\(n=3\) のとき,つまり,半径1の円を半径3の円のまわりに沿ってすべらないように転がしたとき,元の位置に戻るまで何回転するかを考えましょう。

4回転ですね。
そうすると,半径 \(n\) の円のまわりをまわるときは,\(n+1\) 回転であろうことが予想されます。
本当かな?最初の問題の2回転もまだしっくり来ていない人もいるでしょう。\(n+1\) 回転も,そうかもしれないが…,くらいの気持ちかもしれませんね。そこら辺のもやもやをクリアにしていきましょう。
そのために,もっと一般的な問題を考えます。
【疑問】一般に,半径 \(r_1\) の円を半径 \(r_2\) の円のまわりに沿ってすべらないように転がしたとき,元の位置に戻るまで何回転するか。
【答】この問題は,全体の縮尺を変えても回転数は変わらないから,全体を \(\cfrac{1}{r_1}\) 倍した縮尺にすると,半径 \(r_1\) は半径1になり,半径 \(r_2\) は半径 \(\cfrac{r_2}{r_1}\) になる。\(r=\cfrac{r_2}{r_1}\) とすると,問題は,
半径1の円を半径 \(r\) の円のまわりに沿って,
すべらないように転がしたとき,
元の位置に戻るまで何回転するか
となる。\(r\) の値は正であればどんな実数をとることもできる。この問題に答えられれば,\(r=n\)(自然数)の場合も含まれるから,問3の答を得る。
半径1の円が回転した角度を \(\theta\) とする。半径 \(r\) の円の周上では,角度 \(\alpha\) の分だけ転がったとする。

半径1の円は直線上だと \(\theta\) だけ回転しているが,円周上だと \(\theta+\alpha\) だけの角度分回転している。
これが「勘違い」のもとである。
しかし,これをクリアーしてしまえば,後は簡単である。
半径1の円が転がった長さは,上図の赤い弧の長さだから,\(\theta=r\alpha\) である。そして,回転数を \(\rho\) とすると,\(\rho=\cfrac{\theta+\alpha}{2\pi}\) である。ここから,\(\theta\) を消すと,
\(\rho=\alpha\cfrac{1+r}{2\pi}\)
回転する。
【例1】
\(r=1\) のとき,\(\rho =1\)(回転)するには,\(\alpha =\pi\) であることがわかる。\(\alpha =2\pi\) ならば,\(\rho =2\)(回転)となる。
\(r=2\) のとき,\(\rho =1\)(回転)するには,\(\alpha=\cfrac{2\pi}{3}\) であることがわかる。\(\alpha =2\pi\) ならば,\(\rho =3\)(回転)となる。
\(r=3\) のとき,\(\rho =1\)(回転)するには,\(\alpha =\cfrac{\pi}{2}\) であることがわかる。\(\alpha =2\pi\) ならば,\(\rho =4\)(回転)となる。
\(r=n\)(自然数)のとき,\(\rho =1\)(回転)するには,\(\alpha =\cfrac{2\pi}{1+n}\) であることがわかる。\(\alpha =2\pi\) ならば,\(\rho =n+1\)(回転)となる。

【例2】
一般には,\(r\) は1より大きくても小さくてもよい。\(r\) が自然数以外の場合でも,\(\alpha =2\pi\) ならば,\(\rho =1+r\)(回転)となるが,もとの位置にもどったときに,回転が自然数にはならない。
\(p\), \(q\) を自然数として,\(r=\cfrac{p}{q}\)(既約分数)で,\(\alpha =2q\pi\) とすると,\(\rho =p+q\)(回転)してもとに戻る。
\(r\) が無理数の場合,\(\alpha\) が \(2\pi\) の整数倍で,かつ \(\rho\) 回転してもとに戻ることはない。
■ レーマーの贈り物
円を直線上で転がすという(思考)実験は,紀元前から考えられていて,【アリストテレスの贈り物】の回で紹介した。そして,転がしたときの円上の1点の軌跡がサイクロイドになるということは,教科書にも載っている事実である。サイクロイド(cycloid)の命名者は,イタリアのガリレオ(1599)だが,それ以前に,ニコラス・クザ枢機卿(Nicholas of Cusa, Nicholas of Kues, Nicolaus Cusanus, 1401−1464[独])やメルセンヌ数のメルセンヌ(Mari Mersenne, 1588−1648[仏])らによって研究されていた。cyclo-は「円」で,-oidは「に似た,の形ような」の意味のギリシャ語である。
円を定円のまわりに転がしたときの円上の1点の軌跡は,エピサイクロイド(epicycloid)と呼ばれる。epi-は「の上に」の意味で,例えば,epidemic modelは感染症流行モデルのことである。人々(demic)の上に(epi)広がる=流行する感染症である。
エピサイクロイドは,デンマークの天文学者オーレ・レーマー(Ole Christensen Rømer, 1644−1710)による命名といわれている(1674)。エピサイクロイドの歯車の研究,コペンハーゲンで最初の街灯を発明,現代的な温度計の発明で知られている。また,光速の定量的測定を初めて行ない,光の速度は有限であるという見解を示した(1676)。
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1970年東京生まれ。早稲田大学理工学部数学科卒業。東京大学大学院数理科学研究科数理科学専攻博士課程修了。現在,明治大学理工学部数学科専任教授。博士(数理科学)。専門は応用数理,特に界面現象の数理解析。実験を採り入れた数学の講義で定評がある。
| 著書: | 『実験数学読本』①・②・③ (日本評論社),『次元解析入門』,『界面現象と曲線の微積分』,『動く曲線の数値計算』(以上共立出版),『大学数学の教則』(ちくま学芸文庫),『公式は覚えないといけないの?』(ちくまプリマー新書),他。 |
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