特集記事(高校)

高校

2025.02.06

【令和7年度】大学入学共通テストの振り返りと分析〔数学Ⅱ,数学B,数学C〕

筑波大学附属駒場中・高等学校
須藤 雄生 先生

 本稿では,前回の「数学I,数学A」に続き,高校現場の一教員として,今年度の「数学Ⅱ,数学B,数学C」の問題を振り返り,今後の教材開発や授業に生かしていけそうなことを検討していきたいと思います。

第1問 三角関数(数学Ⅱ)

 三角関数についての方程式を,角の追い抜き算による解法へ誘導する形で解いていく設定です。
 もともと三角関数についての方程式は,グラフを使うか,単位円を使うか,どんな式変形をするかなど,解答側がとれる行動の幅が本来は広いタイプの問題で,単一の解法で誘導される今回のような形式だと,受験生だけでなくご覧になった先生方のなかでも,誘導が “合う”・“合わない” の印象はだいぶ異なったのではないでしょうか。
 これを突き詰めて指導に生かしていくとするならば,普段の授業から学習者それぞれが解法の “合う”・“合わない” を体感する機会を多くもつ,つまり複数の解法の比較検討を日常的に行うことによって,かえってどんな誘導でも対応できるようになるのではないかと私は考えています。極端な話,「今年の共通テストがこういう誘導だったから,この問題はいつもこう解くようにしよう」のような学習をいかに “させないか”,教員の立場から手立てを考えるべきでしょう。

第2問 指数関数・対数関数(数学Ⅱ)

 指数関数にしたがって増える水草の量を考える問題でした。(これにしたがって「水草を何%除去する」のようなことが実際にできるのだろうか……など,考え始めるとキリがありませんが,)第1問の三角関数と同じく,あまり知識や技巧的な式変形が要求されないよう工夫されていていたのは好印象でした。百分率を面積の単位のように扱うというのもなかなか大胆で,細かいことに足をすくわれず大局を見る力を重視したメッセージを感じます。
 余談ですが,旧課程では三角関数と指数関数・対数関数は同じ大問1の〔1〕〔2〕に入っていたことが多く,試験時間が10分増えたわりには問題自体のボリュームが見た目ほど増えていなかったのも良かったのではないかと思います。

第3問 微分・積分(数学Ⅱ)

 冒頭から終始,極小値が0の3次関数 \(F (x)\) と,それを平行移動したグラフをもつ極大値が0の3次関数 \(G(x)\) を考えるという,“きれいすぎて珍しい” 状況が与えられる設定でした。
 小問(1)の段階では具体的な式が与えられた状態で,\(F(x)\) のほうは極大,\(G(x)\) のほうは極小をどこでとるかを答えるようになっており,定数 \(k\) はいったん姿を隠す形になっていたので,「いったいこの問題はどこへ向かうのか?」と一瞬方向感覚を見失った方もいたのではないでしょうか。(私はそうでした。)
 ここ最近,共通テストの微積分の問題は計算を排してグラフの概形や導関数と原始関数の関係などに特化した出題になっている印象を持っていて,私自身はこれを望ましい傾向だと感じているのですが,そんな私でも今年はさすがにもうちょっと計算を入れてもよかったのでは(例えば序盤の具体的な関数が与えられた場面で,いったん面積を求めさせておくとか)と思ってしまうほどでした。それだけ,最初から最後まで問題設定が “きれいすぎた” ということでもあり,また第1問・第2問も同様の傾向だったため,余計にそう感じたのかもしれません。

第4問(選択)数列(数学B)

 格子点の個数を数えながら,等差数列の和,等比数列の和,平方数の和などをバランスよく出題していく,出題者の“アイデア勝ち”な設定でした。
いわゆる算数でいう「植木算」(\(x=n+1\) で区切ると \(x\) は 1 から \(n\) まで動かすことになる/各 \(x\) に対して格子点の個数は \(f(x)-1\) 個になる)の若干煩雑なギミックも含めて,公式を付け焼き刃で覚えて(覚えさせて)数列の学習を乗り切ろうとした(乗り切らせようとした)勢力を一掃しようという力強さを感じました。
 最後の「格子点の個数が \(n^3\) 個になる2次式の決定」に関しては,\(n=1,\ 2,\ 3\) で成立するような \(a,\ b,\ c\) をそのまま埋めてしまう“攻略法”が効いてしまい十分性の確認が問えない,というマーク形式の弱点がどうしても出てしまうので,授業でこの題材を扱う際は,そこのフォローも含めていろいろな発展を考えて遊んでみると良いのではないでしょうか。

第5問(選択)統計的な推測(数学B)

 正規分布表の読み取り,二項分布を正規分布で近似して期待値を求める,母平均・母分散と標本平均・標本分散の関係,信頼区間,仮説検定と教科書通りに進むような出題で,これまでの4問に比べると明らかに知識の運用に偏った設定のように感じます。
数学ⅠAの「仮説検定の考え」と同様,この内容を共通テストという限られた枠内で問うことは本質的に難しい面をはらんでいると個人的には考えていて,逆説的に私たち現場の教員としては「テスト対策に流されない,数学科として意義のある統計の授業」をきちんと考えることが求められると思います。
そのヒントをこの問題の中から見いだすのは私には難しいように感じましたが,強いてあげるならば「信頼区間の幅を先に設定し,そこから必要な標本の個数を概算しようとした太郎さん・花子さんの動機と,そのとき使える数学(統計)の道具を関連づける過程」の部分はそれにあたるでしょうか。

第6問(選択)ベクトル(数学C)

 球面上の3点(うち2点は“赤道”上)で正三角形が作れるか,という題材でした。これまでの共通テストのベクトルの問題と比べると,いささか成分表示(空間座標)の扱いが大きいですが,途中経過の式として何度か登場することになる②と③が,それぞれ点\(\text{C}\)の乗るべき平面を表していて,最終的な \(a\) の条件は「線分\(\text{AB}\)が長すぎると正三角形\(\text{ABC}\)が球からはみ出る」といったシンプルな状況を式で表したものである,という見方をすると深まりが出るかもしれません。
 極端な例で考えれば,\(a=1\) のときは(問題文では条件から除外されていますが)\(\text{C}\)を球面上のどこにとっても \(\angle \text{C}\) が90度になってしまうわけですから,\(\text{B}\)がある程度\(\text{A}\)の近くにいないと正三角形はつくれない,といった想像も可能ではあると思います。誘導に乗って解くだけならこのような見方は不要(むしろ邪魔になってしまう?)ですが,せっかくの題材なので,条件変えなども検討して発展させると面白そうです。

第7問(選択)平面上の曲線と複素数平面(数学C)

 複素数平面上の点の位置関係や点の変換を扱う問題です。後半は「動点\(\text{A}\)がある図形上を動くとき,変換後の点\(\text{P}\)が描く軌跡」ではなく,「動点Aとその変換後の点\(\text{C}\),さらに定点\(\text{B}\)が条件を満たすような点\(\text{A}\)の軌跡」を扱っていて,式をたよりにすれば結論は導けますがイメージはしづらい設定になっています。
 特に,「すべての点を対称移動すると,条件を満たす点はどうなるか」「動点\(\text{A}\)のみ対称移動すると,条件を満たす点はどうなるか」という2つの課題をならべているのは興味深いです。一般化,特殊化のしやすい性質でもあると思うので,これも授業を通じていろいろ試してみたくなる設定だと思います。
 余談ですが,学習指導要領では,数学Cの内容として「平面上の曲線と複素数平面」という異なる2つの内容が併記されたものが示されています。(旧数学Ⅲ時代からそのままです。)
 このためか,共通テストの試作問題では,本問に関して2つの中問で構成されていました。初年度の本試験は複素数平面の問題だけになりましたが,全体の分量によっても内容が変わるかもしれませんので,しばらく出題傾向は注目されそうです。

 以上,2回にわたり共通テスト本試験の題材を振り返ってきました。個人的には,特に数学Ⅱ範囲の第1問~第3問について,出題の先生方の「木(枝の一本一本)を見るより森を見よ」というような,一貫したコンセプトを感じました。
 前回のⅠAとあわせて,今回のⅡBCでも,拙い分析や背景知識の抜けなどありましたらご指摘いただき,日々の数学の授業を通して生徒に何を経験させたいか,という議論につなげていければ幸いです。

参考資料(外部サイトにリンクします)
令和6年度 大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト問題作成方針(大学入試センター発表)
令和7年度試験の問題作成の方向性、試作問題等(大学入試センター発表)
令和7年度 大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト問題作成方針(大学入試センター発表)

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