特集記事(高校)

高校

2025.02.06

Tanθを楽しもう(第2回)【中川先生特別講義】

長崎大学 教授
中川 幸久 先生

第2回 講義

(第1回はこちら

講義のねらい

【連鎖探索法】

 第1回講義では,横1列に並ぶタイルの対角線でつくる鋭角の和が \(\frac{\pi}{4}\) になる場合を代数的に導き出したが,実際に解くと,非常に煩雑であり時間もかかる。
 ここで紹介する連鎖探索法とは,名前の通り連鎖的に角を分解しながら表現する方法で,極めて素早く分解することが可能である。みなさんと一緒に,その有用性を検証したい。
 また,連鎖探索法では,直角を挟む2辺の平方の和によって様々な形で表現されるが,特に1通りしか表現できない場合について,整理してみたい。

3.連鎖探索法

(Q2-3-1)連鎖探索法とは何か。
Tanθを楽しもう(第2回)【中川先生特別講義】01

\(\tan \theta = \frac{1}{n}(n \geqq 1), \tan \theta _1=\frac{1}{n+x}, \tan \theta _2=\frac{1}{n+y}(1 \leqq x \leqq y)\)(\(n\),\(x\),\(y\) は整数)とする。

\(\theta = \theta _1 + \theta _2\) のとき

\(\tan \theta = \tan (\theta _1 + \theta _2) = \frac{\tan \theta _1 + \tan \theta _2}{1- \tan \theta _1\tan \theta _2}\)

\(\frac{1}{n} = \dfrac{\frac{1}{n+x}+\frac{1}{n+y}}{1 -\frac{1}{(n+x)(n+y)}}\)

\(\frac{1}{n} = \frac{2n+(x+y)}{(n+x)(n+y)-1}\)

\(2n^2+(x+y)n=n^2+(x+y)n-1+xy\)

\(n^2+1=xy\)

逆に,\(n^2+1=xy\) であれば

\(\tan(\theta_1 + \theta_2) = \frac{\tan\theta_1+\tan\theta_2}{1-\tan\theta_1\tan\theta_2}\)

\(\hspace{107px} = \frac{2n+(x+y)}{(n+x)(n+y)-1}\)

\(\hspace{107px} = \frac{2n+(x+y)}{n^2+(x+y)n+xy-1}\)

\(\hspace{107px} = \frac{2n+(x+y)}{2n^2+(x+y)n} = \frac{1}{n} = \tan\theta\)

\(\theta,\theta_1,\theta_2\) は鋭角だから,\(\theta=\theta_1+ \theta_2\) が成り立つ。

特に,\(n=1\) のときは \(\theta=\frac{\pi}{4}\)

このとき \(xy=2\)
 \(x=1\),\(y=2\)
つまり \(n+x=1+1=2\),\(n+y=1+2=3\)

正接が \(\frac{1}{2}\),\(\frac{1}{3}\) のとき,2つの角の和は \(\frac{\pi}{4}\) となる。

前述のように,これを \((1, 1)=(2, 1)+(3, 1)\) と表すことにする。

(Q2-3-2)連鎖探索法の利点は何か。

 連鎖探索法は,ある自然数 \(n\),\(\tan\theta=\frac{1}{n}\) のタイプの直角三角形について,\(n^2+1=xy\) を満たす \(x\),\(y\) を定め

\(\tan\theta_1=\frac{1}{n+x} , \tan\theta_2=\frac{1}{n+y}(\theta=\theta_1+\theta_2)\)

とする2つの直角三角形の分解する方法である。
 したがって,\(n^2+1\) の約数から,2つの数の組 \((x, y)\) を定めれば

\((n, 1)=(n+x, 1)+(n+y, 1)\)

と容易に表すことができる。

【例】\((2, 1)\) の直角三角形
 \(n^2+1=2^2+1=xy\)
 \((x, y)=(1, 5)\)
つまり (2, 1)=(3, 1)+(7, 1)

【例】\((3, 1)\) の直角三角形
 \(n^2+1=3^2+1=xy\)
 \((x, y)=(1, 10), (2, 5)\)
(i) \((x, y)=(1, 10)\) のとき
つまり \((3, 1)=(4, 1)+(13, 1)\)
(ii) \((x, y)=(2, 5)\) のとき
つまり \((3, 1)=(5, 1)+(8, 1)\)

(Q2-3-3)一般的に高さ \(p\) の直角三角形において連鎖探索法はどうするか。
Tanθを楽しもう(第2回)【中川先生特別講義】02

\(\tan\theta=\frac{p}{n}(n \geqq 1), \tan\theta_1=\frac{p}{n+x}, \tan\theta_2=\frac{p}{n+y}(0 \leqq x \leqq y)\)(\(n\),\(x\),\(y\),\(p\) は整数)とする。

\(\theta=\theta_1+\theta_2\) のとき

\(\tan \theta = \tan (\theta _1 + \theta _2) = \frac{\tan \theta _1 + \tan \theta _2}{1- \tan \theta _1\tan \theta _2}\)

\(\frac{p}{n}=\dfrac{\frac{p}{n+x}+\frac{p}{n+y}}{1-\frac{p^2}{(n+x)(n+y)}}\)

\(\frac{1}{n}=\dfrac{\frac{1}{n+x}+\frac{1}{n+y}}{1-\frac{p^2}{(n+x)(n+y)}}\)

\(\hspace{22px}=\frac{(n+y)+(n+x)}{(n+x)(n+y)-p^2}\)

\((n+x)(n+y)-p^2=n\{2n+(x+y)\}\)

\(n^2+(x+y)n+xy-p^2=2n^2+(x+y)n\)

\(xy=n^2+p^2\)

逆も成り立つ。
つまり,\((x, y)\) は,\(n^2+p^2\) の約数を定めればよい。
少なくとも \(x=1\),\(y=n^2+p^2\) は約数の1組であるから
\((n, p)=(n+1, p)+(n+n^2+p^2, p)\) と表現できる。

【例】\((1, 2)\) の直角三角形
\((1, 2)\) は \(n=1\),\(p=2\)
 \(xy=1^2+2^2=5\)
\(x \leqq y\) より \((x, y)=(1, 5)\)
よって \((1, 2)=(2, 2)+(6, 2)=(1, 1)+(3, 1)\)

ここで,\((3, 1)\) は \(n=3\),\(p=1\)
 \(xy=3^2+1^2=10\)
\(x \leqq y\) より \((x, y)=(1, 10), (2, 5)\)
(i) \((x, y)=(1, 10)\) のとき
 \((3, 1)=(4, 1)+(13, 1)\)
つまり \((1, 2)=(1, 1)+(4, 1)+(13, 1)\)
(ii) \((x, y)=(2, 5)\) のとき
 \((3, 1)=(5, 1)+(8, 1)\)
つまり \((1, 2)=(1, 1)+(5, 1)+(8, 1)\)

【まとめ】

 このように,高さ2の直角三角形においても連鎖的に,いくつの直角三角形の和として表すことができる。

(Q2-3-4)次の直角三角形の角を連鎖探索法によって2つの角の和に表せ。
(1) \((5, 1)\)
(2) \((6, 1)\)
(3) \((4, 2)\)
(4) \((2, 4)\)

\(\tan\theta=\frac{p}{n}(n \geqq 1), \tan\theta_1=\frac{p}{n+x}, \tan\theta_2=\frac{p}{n+y}(0 \leqq x \leqq y)\) とする。

\(\theta = \theta_1 + \theta_2\) のとき \(xy=n^2+p^2\)

(1) \((5, 1)\) は \(n=5\),\(p=1\)
 \(xy=5^2+1^2=26\)
\(x \leqq y\) より \((x, y)=(1, 26), (2, 13)\)
(i) \((x, y)=(1, 26)\) のとき
 \((5, 1)=(5+1, 1)+(5+26, 1)\)
つまり \((5, 1)=(6, 1)+(31, 1)\)
(ii) \((x, y)=(2, 13)\) のとき
 \((5, 1)=(5+2, 1)+(5+13, 1)\)
つまり \((5, 1)=(7, 1)+(18, 1)\)

(2) \((6, 1)\) は \(n=6\),\(p=1\)
 \(xy=6^2+1^2=37\)
\(x \leqq y\) より \((x, y)=(1, 37)\)
\((x, y)=(1, 37)\) のとき
 \((6, 1)=(6+1, 1)+(6+37, 1)\)
つまり \((6, 1)=(7, 1)+(43, 1)\)

(3) \((4, 2)\) は \(n=4\),\(p=2\)
 \(xy=4^2+2^2=20\)
\(x \leqq y\) より \((x, y)=(1, 20), (2, 10), (4, 5)\)
(i) \((x, y)=(1, 20)\) のとき
 \((4, 2)=(4+1, 2)+(4+20, 2)\)
つまり \((4, 2)=(5, 2)+(24, 2)\)
(ii) \((x, y)=(2, 10)\) のとき
 \((4, 2)=(4+2, 2)+(4+10, 2)\)
つまり \((4, 2)=(6, 2)+(14, 2)\)
(iii) \((x, y)=(4, 5)\) のとき
 \((4, 2)=(4+4, 2)+(4+5, 2)\)
つまり \((4, 2)=(8, 2)+(9, 2)\)

(4) \((2, 4)\) は \(n=2\),\(p=4\)
 \(xy=2^2+4^2=20\)
\(x \leqq y\) より \((x, y)=(1, 20), (2, 10), (4, 5)\)
(i) \((x, y)=(1, 20)\) のとき
 \((2, 4)=(2+1, 4)+(2+20, 4)\)
つまり \((2, 4)=(3, 4)+(22, 4)\)
(ii) \((x, y)=(2, 10)\) のとき
 \((2, 4)=(2+2, 4)+(2+10, 4)\)
つまり \((2, 4)=(4, 4)+(12, 4)\)
(iii) \((x, y)=(4, 5)\) のとき
 \((2, 4)=(2+4, 4)+(2+5, 4)\)
つまり \((2, 4)=(6, 4)+(7, 4)\)

(Q2-3-5)次の直角三角形の角を連鎖探索法によって2つの角の和に表せ。
(1) \((1, 1)\)
(2) \((2, 2)\)
(3) \((3, 3)\)
(4) \((4, 4)\)

(1) \((1, 1)\) は \(n=1\),\(p=1\)
 \(xy=1^2+1^2=2\)
\(x \leqq y\) より \((x, y)=(1, 2)\)
\((x, y)=(1, 2)\) のとき
 \((1, 1)=(1+1, 1)+(1+2, 1)\)
つまり \((1, 1)=(2, 1)+(3, 1)\)

(2) \((2, 2)\) は \(n=2\),\(p=2\)
 \(xy=2^2+2^2=8\)
\(x \leqq y\) より \((x, y)=(1, 8), (2, 4)\)
(i) \((x, y)=(1, 8)\) のとき
 \((2, 2)=(2+1, 2)+(2+8, 2)\)
つまり \((2, 2)=(3, 2)+(10, 2)\)
(ii) \((x, y)=(2, 4)\) のとき
 \((2, 2)=(2+2, 2)+(2+4, 2)\)
つまり \((2, 2)=(4, 2)+(6, 2)\) ← \((1, 1)=(2, 1)+(3, 1)\) と同じ。

(3) \((3, 3)\) は \(n=3\),\(p=3\)
 \(xy=3^2+3^2=18\)
\(x \leqq y\) より \((x, y)=(1, 18), (2, 9), (3, 6)\)
(i) \((x, y)=(1, 18)\) のとき
 \((3, 3)=(3+1, 3)+(3+18, 3)\)
つまり \((3, 3)=(4, 3)+(21, 3)\)
(ii) \((x, y)=(2, 9)\) のとき
 \((3, 3)=(3+2, 3)+(3+9, 3)\)
つまり \((3, 3)=(5, 3)+(12, 3)\)
(iii) \((x, y)=(3, 6)\) のとき
 \((3, 3)=(3+3, 3)+(3+6, 3)\)
つまり \((3, 3)=(6, 3)+(9, 3)\) ← \((1, 1)=(2, 1)+(3, 1)\) と同じ。

(4) \((4, 4)\) は \(n=4\),\(p=4\)
 \(xy=4^2+4^2=32\)
\(x \leqq y\) より \((x, y)=(1, 32), (2, 16), (4, 8)\)
(i) \((x, y)=(1, 32)\) のとき
 \((4, 4)=(4+1, 4)+(4+32, 4)\)
つまり \((4, 4)=(5, 4)+(36, 4)\)
(ii) \((x, y)=(2, 16)\) のとき
 \((4, 4)=(4+2, 4)+(4+16, 4)\)
つまり \((4, 4)=(6, 4)+(20, 4)\) ← \((2, 2)=(3, 2)+(10, 2)\) と同じ。
(iii) \((x, y)=(4, 8)\) のとき
 \((4, 4)=(4+4, 4)+(4+8, 4)\)
つまり \((4, 4)=(8, 4)+(12, 4)\) ← \((1, 1)=(2, 1)+(3, 1)\) と同じ。

【整理】
 直角を挟む2辺の比が同じでも様々に表現される。

(Q2-3-6)\((n, p)\) を連鎖探索法によって2つの角の和で表すとき,ただ1通りしかない場合はどんなときか。

 \(xy=n^2+p^2\)(\(1 \leqq x \leqq y\))
\((x, y)\) が1通りしかない場合は,\(n^2+p^2\) が素数になるときである。
この場合 \(x=1\),\(y=n^2+p^2\)

\(\boldsymbol{(n, p)=(n+1, p)+(n+n^2+p^2, p)}\)

(資料2-①)

 \(n^2+p^2\) が素数になれば,連鎖探索法によって2つの角の和に表すとき,ただ1通りしかない。

(Q2-3-7)次の直角三角形の角を連鎖探索法によって2つの角の和に表せ。
(1) \(\hspace{10px}(1, 1)\)   (2) \(\hspace{9px}(1, 2)\)   (3) \(\hspace{8px}(2, 3)\)
(4) \(\hspace{10px}(1, 4)\)   (5) \(\hspace{9px}(2, 5)\)   (6) \(\hspace{8px}(1, 6)\)
(7) \(\hspace{10px}(4, 5)\)   (8) \(\hspace{9px}(2, 7)\)   (9) \(\hspace{8px}(5, 6)\)
(10) \((3, 8)\)   (11) \((5, 8)\)   (12) \((4, 9)\)

(1) \(\hspace{8px}xy=1^2+1^2=2\) よって \(x=1\),\(y=2\) \((1, 1)=(2, 1)+(3, 1)\)
(2) \(\hspace{8px}xy=1^2+2^2=5\) よって \(x=1\),\(y=5\) \((1, 2)=(2, 2)+(6, 2)\)
(3) \(\hspace{8px}xy=2^2+3^2=13\) よって \(x=1\),\(y=13\) \((2, 3)=(3, 3)+(15, 3)\)
(4) \(\hspace{8px}xy=1^2+4^2=17\) よって \(x=1\),\(y=17\) \((1, 4)=(2, 4)+(18, 4)\)
(5) \(\hspace{8px}xy=2^2+5^2=29\) よって \(x=1\),\(y=29\) \((2, 5)=(3, 5)+(31, 5)\)
(6) \(\hspace{8px}xy=1^2+6^2=37\) よって \(x=1\),\(y=37\) \((1, 6)=(2, 6)+(38, 6)\)
(7) \(\hspace{8px}xy=4^2+5^2=41\) よって \(x=1\),\(y=41\) \((4, 5)=(5, 5)+(45, 5)\)
(8) \(\hspace{8px}xy=2^2+7^2=53\) よって \(x=1\),\(y=53\) \((2, 7)=(3, 7)+(55, 7)\)
(9) \(\hspace{8px}xy=5^2+6^2=61\) よって \(x=1\),\(y=61\) \((5, 6)=(6, 6)+(66, 6)\)
(10) \(xy=3^2+8^2=73\) よって \(x=1\),\(y=73\) \((3, 8)=(4, 8)+(76, 8)\)
(11) \(xy=5^2+8^2=89\) よって \(x=1\),\(y=89\) \((5, 8)=(6, 8)+(94, 8)\)
(12) \(xy=4^2+9^2=97\) よって \(x=1\),\(y=97\) \((4, 9)=(5, 9)+(101, 9)\)

【整理】
 \(xy=n^2+p^2\) の値が素数の場合,1通りの分け方しかない。

 (第3回につづく)

【講師】

長崎大学 教育開発推進機構
アドミッションセンター教授
中川 幸久 先生

【オンラインセミナー】統計的な推測の指導について(中川幸久先生)01
東京書籍(株)教科書「数学 Advancedシリーズ」編集委員。
長崎大学教育学部数学科卒業後,長崎県内の高等学校で教諭,教頭,校長を歴任。長崎県教育委員会で人事管理監,高校課長,教育次長を経て退職。長崎県立図書館長を経て,2015 年より現職。地域貢献として,長崎県 NIE 推進協議会会長,長崎県明るい選挙推進協議会会長を歴任する。現在,長崎県数学教育会会長,九州数学教育会理事を務める。

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