八丈島の玉石垣
ゆうなです。ここは八丈島。ポカポカあったかいです。すぐそこに、富士山みたいな形の山が見えるね。
さすが、ゆうなさん。まさに八丈富士という名前の火山なんだよ。標高は854.3m。向こうに三原山という山もあって、この2つが連なってヒョウタンのような形をしているのが、八丈島なんだ。
ヒョウタン。ひょっとしてここが、「ひょっこりひょうたん島」？
ゆうなさん、さえてるね！ まさに、人形劇『ひょっこりひょうたん島』のモデルになったという説もあるんだ。温かい気候で育つ、明日葉（あしたば）やパッションフルーツが特産だよ。花の栽培も歴史が古くて、今はちょうどフリージアのお祭りが……
ちょっと待って、ルーロー。お花もすてきだけど、まずこの石垣、すごくない？ 大きな石がこんなにたくさん、ずっと向こうまで続いてる。
（大里の玉石垣、陣屋跡周辺）
おおっ。ゆうなさん、よく気づいてくれたね。この石垣は玉石垣といって、1km以上も離れた海岸の丸い石を運んで積み上げたものなんだ。石1個は、20kgあるともいわれているよ。
どうやって運んだんだろう。海岸でトラックに積み込むのは大変そう。
トラックなんか、使っていないよ。なにしろ江戸時代に作られたものだからね。八丈島には流刑地としての歴史もあって、江戸時代には流罪となった人がたくさん暮らしていたんだ。その流人が海岸から石をひとつ運ぶと、おにぎりがひとつもらえたんだって。関ヶ原の戦いで徳川家康と戦った宇喜多秀家という人が、最初の流人だったんだよ。
これだけの石が全部、人の手で運ばれて積まれたってこと？ じっと見てると、なんだかクラクラしちゃう。あれ？ そういえばこの石、みんな斜めに積んであるけど、どうしてかな。……ああそうか、丸い石の上に丸い石を積んだらグラグラするもんね。石と石の間に、はめるように積んでいったんだろうね。
うんうん、きっとその通りだね。まっすぐ格子状に積んだときと斜めに積んだときのすき間を比べると、もっとハッキリしそうだよ。
丸い石の、積み方だよね。ええと……そうだ、石の断面を円として考えてみればいいかな。格子状に積んだ場合、4つの円の中心を結ぶと正方形になる。斜めに積んだ場合、3つの円の中心を結ぶと正三角形になる。それぞれの、すき間の面積を計算してみるよ。
まず、格子状に積んだ場合。円の半径を \(r\)とすると、正方形の1辺は \(2r\)。4つのおうぎ形を合わせた面積は円と等しくなるから、すき間の面積は
\(2r \times 2r-\pi r^2 \fallingdotseq 0.86r^2\)
次に、斜めに積んだ場合。正三角形の1辺はさっきと同じで\(2r\) 、底辺の長さ（1辺の長さ）と高さの比は \(2 : \sqrt{3}\) だから、高さは\(\sqrt{3}r\) だね。
3つのおうぎ形を合わせた面積は半円と等しくなるから、すき間の面積は
\(2r \times \sqrt{3}r \times \dfrac{1}{2}-\pi r^2 \times \dfrac{1}{2}\fallingdotseq 0.16r^2\)
斜めに積んだ場合はすき間が2つになっているから
\(0.16r^2 \times 2 =0.32r^2\)
さあ、いよいよ2つを比べるよ……
\(0.32r^2 \div 0.86r^2=\dfrac{16}{43}\fallingdotseq\dfrac{2}{5}\)
つまり斜めに積めば、すき間の面積は \(\dfrac{2}{5}\) くらいになるってこと。ぐっと安定するね。
ゆうなさん、計算バッチリ！ じゃあ次は、格子状に積んだ場合、1個の石の周りにはいくつの石が接してるかな？
4つ。だけど、斜めに積んだ場合は6個だ。6個の石で、ガッチリ固めることができるんだね。
その通り。それで、この積み方を「六方積み」というんだ。この玉石垣は、すき間に接着剤を全く使っていないのに、400年間ほとんどくずれることもなかった。それくらい丈夫な積み方だよ。蜂の巣の「ハニカム構造」にも似ているよ。
玉石垣と蜂の巣、不思議なつながりだね。とにかく、長い石垣の謎がとけてスッキリしたよ。そういえば、フリージアのお祭もやっているんだったっけ？ そこにも行ってみたいな。
よーし、さっそく行こう。八丈島のいいところは、まだまだたくさんあるよ！
＊八丈島の玉石垣／東京都八丈島八丈町。大里集落の玉石垣は、約1km離れた横間ヶ浦の海岸で波に削られた丸石を運んで作られた。
＊八丈島フリージアまつり／2025年3月22日〜4月6日。フリージア畑での無料摘み取りができるほか、八丈島太鼓や黄八丈（着物）の着付け体験なども。メイン会場は八丈島空港から徒歩15分の、八形山フリージア畑。
＊写真撮影・図作成／大野寛武
〒100-1401 東京都八丈島八丈町
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