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- 【#38】若手先生の困り事相談~生成AIと授業を考…
「佐藤寿仁先生と考える」では、授業づくりのポイントや教科書の使い方などについて、連載していきます。現場の先生方は、大変お忙しくて教材研究する時間が取りにくいところかと思います。少しお時間をいただき、立ち止まって一緒に考えてみませんか。
今回は、若手の先生からいただいた困り事について、考えてみたいと思います。
生成AIと授業を考える

Q 生成AIの活用について職場でよく話題になります。特に授業において生徒がどのように使うことがよいのかについて悩んでいます。活用事例やそのポイントを教えてください。
A 生成AIを取り入れた授業の開発が期待されています。しかし、ただ使用すればよいのでなく、教育的意図を持った活用が求められています。子供のフィードバックに重点を置いた活用事例をもとに、よりよい実践について考えてみましょう。
今回は、中学校第2学年の実際の授業実践例をみながら、生成AIのよりよい活用について考えていきます。実践された授業は、中学校第2学年Dデータの活用「確率」になります。教科書(「新編 新しい数学2(東京書籍)」では、下のような問題が設定されている場面です。

授業実践例は秋田県大仙市立中仙中学校の三浦誠先生です。三浦先生の御実践は、【math connect】トークセッション:生徒の数学が動き出す!発問のチカラ Vol.1、2でも紹介されていますので、関心のある方はこちらもご覧ください。
本授業は、中学校第2学年の確率「2枚の10円硬貨を投げたときの確率」を扱い、生成AI(Microsoft Copilot)の対話機能を活用し、生徒の振り返りに対して生成AIが質問や助言を返す形で、振り返りの場面が設定された実践でした。注目すべきは、生成AIを生徒への解答提示として使用するのではなく、生徒の考えを引き出す「対話の相手」として位置付けていた点です。実際の授業では、硬貨2枚を同時に投げたとき、出方が【表と表】【表と裏】【裏と裏】の3通りについて生徒が批判的に捉え、それを表や図、樹形図を使いながら【表、表】【表、裏】【裏、表】【裏、裏】の4通りであることへ改善する活動が行われました。これらのことを通して、事象とその確率について意味理解を伴った学びが実現されていました。

近年、教育現場において生成AIの活用が注目されている背景には、GIGAスクール構想による1人1台端末環境の整備があります。人間を技術面だけでなく、思考側面においても支援するテクノロジーが現実のものとなり、「個別最適な学び」や「主体的・対話的で深い学び」を支える手段として期待が高まっています。
こうした状況を踏まえ、文部科学省は「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドラインVer.2.0」において、「生成AIは万能ではなく、出力には誤りが含まれる可能性があることを踏まえ、批判的に吟味しながら活用することが重要である」と示されています。また、「児童生徒の思考力・判断力・表現力等を育成する観点から、単に解答を得るための利用とならないよう留意する必要がある」と明記されており、教師のより適切な指導の下で活用することを前提とし、教育的意図をもった活用設計の重要性を強調しています。
本実践は、生成AIを「学びにおける振り返りの質を高めるための支援」として位置付けた授業の工夫といえ、授業の最後に行う振り返りの場面をより充実させることをねらった取り組みでした。生徒が学びの状況を自分で確認し、自分の学びを振り返りながら、次の学びにつなげていく力(自己調整)に大きく関わるものと考えられます。具体的には、授業の終末場面に、生徒が本時の学習課題を入力し、「何を学んだのか」を自分の言葉で記述していました。これに対して生成AIが即時に応答し、「もう少し具体的に書いてみよう」などと書き直しを促していました。本来であれば授業者は生徒一人一人へ、このようなやり取りを繰り返し、生徒は自分の理解を確実なものとしていくことが望ましいですが、授業を行っている教師には物理的に不可能といえます。生徒は生成AIとのやり取りを繰り返し、より適切な表現へと高めていくことができます。教師一人では難しい個別最適な学びにつながるフィードバックを補完しているといえます。また、生成AIの応答が評価ではなく支援として機能していたことも重要です。実際の授業では、生徒は安心して自分の考えやわかったことなどを生成AIとのやりとりを重ねることを通して、「2枚の硬貨を同時投げたとき、起こり得る全ての場合が3通りでなく4通りである」ことを、樹形図や表を用いて説明していました。このような言語活動の充実により、確率の意味理解とその定着につながるのだと思いました。

今後の活用としては、問題解決過程への支援が考えられるのではないかと思います。生徒が問題解決に行き詰まった際に、「次に何を考えればよいか」といったヒントを得ることで思考を促す活用です。この際、解答を直接提示させない設計が必要であり、自分の考えを生成AIに説明し、それに対して、「別の考え方はあるか」「この説明で十分か」と生成AIが問い返すことで、生徒の多様な見方や考え方を育成することも可能になるのではないでしょうか。さらに、個別最適な学びへの展開も期待されます。このように学習状況に応じて異なる問いや支援を提示することで、一人一人の理解に応じた学びを実現することができます。
生成AIはあくまで学びを支える、もしくは子供に伴走するものであり、教師の教育的意図のもとで活用されることが大切です。本実践は、文部科学省が示す方向性にも合致した、「考えを深めるための生成AI活用」の好事例のひとつといえ、これからの数学の授業の在り方に示唆を与える実践であるといえるでしょう。
※参考資料
- 新編 新しい数学2(東京書籍)
- 中学校学習指導要領(平成29年告示)解説数学編
- 初等中等教育段階における生成 AI の利活用に関するガイドライン Ver.2.0
(文部科学省初等中等教育局)
【佐藤寿仁先生 略歴】
岩手県公立中学校で11年、岩手大学教育学部附属中学校で6年教職を務め、岩手県岩泉町教育委員会指導主事、国立教育政策研究所学力調査官・教育課程調査官を経て、令和3年度より岩手大学教育学部准教授。学校教育の充実や現職教員の職業能力開発の支援から、全国調査など国の教育のアセスメントに関わり、これからの教育について幅広く研究を進めている。
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