特集記事(小中学校)

中学校

2024.05.09

【#23】若手先生の困り事相談 ~知識及び技能を育成する(式の計算①)~

「佐藤寿仁先生と考える」では、授業づくりのポイントや教科書の使い方などについて、連載していきます。現場の先生方は、大変お忙しくて教材研究する時間が取りにくいところかと思います。少しお時間をいただき、立ち止まって一緒に考えてみませんか。(佐藤寿仁)

 今回は、若手の先生からいただいた困り事について、考えてみたいと思います。

知識及び技能を育成する(式の計算①)

【#23】若手先生の困り事相談 ~知識及び技能を育成する(式の計算①)~01

Q 第2学年では「文字を用いた式」の単元を進めています。文字式の計算練習のような授業になってしまいがちです。文字式の計算の授業づくりでのポイントを教えてください。

 生徒が問いを持って問題に取り組むことができるように場面を工夫してみましょう。

 どの学年もA「数と式」領域での単元の学習に取り組んでいると思います。この領域では実際に式を計算する場面も多いため、生徒が式を計算することが授業の中心になるのではと思います。正しく計算できることは、今後の生徒の問題解決にとって必要となる大切な知識・技能です。生徒にとっても、「式を計算できる」ということはとても嬉しいことですよね。しかし、その授業が計算の練習を繰り返すのみの授業になってはいないでしょうか。「技能」ではなく「知識及び技能」を獲得するための授業づくりを考えてみましょう。

□式の計算方法を既習に関連付けて考える場面を設定する

 式の計算の単元において、生徒は新しい計算との出会い、その連続です。計算方法をしっかり教え、練習をして技能を身に付けるという指導法もあるでしょう。しかし、学習指導要領では「主体的・対話的で深い学びの実現」を授業改善の視点としており、式を計算する際にもこの視点での授業づくりは大切なことではないでしょうか。
新しい数学2、第1章「式の計算」(p.13)には、最初に下のような記載があります。

【#23】若手先生の困り事相談 ~知識及び技能を育成する(式の計算①)~02

新しい数学2 第1章「式の計算」p.13

 \(\text{「}5x+7-3x+6 \text{」}\)については、1年生の文字と式での「同じ文字の項を含む場合に、それらをまとめ、計算することができるようになる」という学習において経験している内容です。\(\text{「}5x+7y-3x+6y \text{」}\)は2年生の内容です。授業では、1年生の復習と称して\(\text{「}5x+7-3x+6 \text{」}\)を計算するのではなく、\(\text{「}5x+7-3x+6 \text{」}\)と\(\text{「}5x+7y-3x+6y \text{」}\)と提示し、これらの式について計算したことがあるかどうかを考えてみます。その上で\(\text{「}5x+7-3x+6 \text{」}\)は1年生で既に計算方法を学習したことを確認し計算に取り組みます。その後、\(\text{「}5x+7y-3x+6y \text{」}\)を取り上げ、\(\text{「}5x+7-3x+6 \text{」}\)と比較をして式の違いを捉え、計算の方法を考えるといった見通しを持つことが大切です。このような活動を通して、\(\text{「}5x+7-3x+6 \text{」}\)では文字が1種類だったが、\(\text{「}5x+7y-3x+6y \text{」}\)には2種類の文字があるが、1年生で学んだ「同じ文字の項を含む場合に、それらをまとめ、計算することができるようになる」を活かし、同じようにして考え、文字の部分が同じである項どうしをまとめればよいことを見いだすのではないでしょうか。そして、同類項という用語について伝えるのです。
 このように、文字を用いた計算を指導する際には、学年間のつながりを具体的に捉え、単に復習とするのでなく、生徒がそれを手がかりにして計算方法を考える活動を設定してみましょう。当該学年だけをみることなく他学年の教科書を参考にしながら教材研究するとよいでしょう。

□どのように計算すれば・・・と問うてみることで

 新しい数学2、第1章「式の計算」(p.18)には、最初に下のようなことが掲載されています。文字式の除法です。

【#23】若手先生の困り事相談 ~知識及び技能を育成する(式の計算①)~03

新しい数学2 第1章「式の計算」p.18

 生徒に伝える問題は、\(\text{「}12ab \div 4b\) を計算しなさい。\(\text{」}\)ではなく、\(\text{「}12ab \div 4b\) は、どのようにを計算すればよいでしょうか。\(\text{」}\)ですので、文字式の除法の計算ができるようになる、ということについて「方法の説明」として問うていることがわかります。まず答えの確認するのですが、教科書では面積図を用いて考えることを促しています。また、乗法に関連させて、\(\text{「}12ab \div 4b=□\text{」}\)を\(\text{「}□ \times 4b=12ab\text{」}\)とし、\(□\) に当てはまるものを考えてもよいでしょう。これらから、答えは \(3a\) となります。
 \(12ab \div 4b=3a\) になることはわかりましたので、次に \(3a\) を導く方法を考えます。答えに \(3\) が含まれていることから \(12 \div 4\) をした \(3\) ではないかということや、小学校算数(6年生)や正負の数で学んだ除法の計算方法(除数の逆数をかけることと結果が同じになる・・・)を同じように用いればよいことを話し合うなどして、実際に計算する活動が考えられます。1年生の文字式の除法では、除数には文字が含まれていません。学びのつながりを教材研究で確認しましょう。

 式の計算の学習では、文字式の計算にたくさん取り組むことで計算ができるようになることも大切ではありますが、既に知っている文字式の計算に関連させて計算方法を考えることも大切にしましょう。算数・数学の学習において、前の学習を活かして乗り越えることや新しい価値を見いだすことは、式の計算の学習においてもできますし、学ぶ楽しさとなるのではないでしょうか。

※参考資料

  • 新しい数学1(東京書籍)
  • 新しい数学2(東京書籍)

【佐藤寿仁先生 略歴】
岩手県公立中学校で11年、岩手大学教育学部附属中学校で6年教職を務め、岩手県岩泉町教育委員会指導主事、国立教育政策研究所学力調査官・教育課程調査官を経て、令和3年度より岩手大学教育学部准教授。学校教育の充実や現職教員の職業能力開発の支援から、全国調査など国の教育のアセスメントに関わり、これからの教育について幅広く研究を進めている。

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