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中学校

2023.11.30

【#13】若手先生の困り事相談 ~図形の証明における指導を考える①~

「佐藤寿仁先生と考える」では、授業づくりのポイントや教科書の使い方などについて、連載していきます。現場の先生方は、大変お忙しくて教材研究する時間が取りにくいところかと思います。少しお時間をいただき、立ち止まって一緒に考えてみませんか。(佐藤寿仁)

 今回は、若手の先生からいただいた困り事について、考えてみたいと思います。

図形の証明における指導を考える① 〜数学的に推論し、問題解決する〜

【#13】若手先生の困り事相談 ~図形の証明における指導を考える①~01

Q 図形領域の単元が始まり、証明についての指導で悩んでいます。生徒はなかなか証明を書くことができません。証明することができるようになるための授業づくり、授業でのポイントはありますか。

 次のポイントを意識してみましょう。

  • 証明の必要性を理解することができるような授業を構想する。
  • 証明する活動を取り組む際に見通しや構想を建てる場面を取り入れる。

 今号では「証明の必要性を理解することができるような授業を構想する。」ことについて考えてみましょう。

 教科書を見ると、2学期の中頃から図形の領域の学習内容になります。特に、2年生は、図形の性質を証明する学習が始まり、生徒にとっても指導される先生にとってもなかなかたいへんな時間となり、学習指導に悩む先生がいらっしゃいます。算数・数学では、数学的な考え方として「筋道を立てて考えること」を重視し、数学的な表現を伴う説明としての証明を指導します。中学校学習指導要領(平成29年告示)解説数学編には、数学科の目標にいわゆる3つの資質・能力のうち「思考力・判断力・表現力等」として、下のように示されています。

  1. 数学を活用して事象を論理的に考察する力,数量や図形などの性質を見いだし統合的・発展的に考察する力,数学的な表現を用いて事象を簡潔・明瞭・的確に表現する力を養う。

 多くの図形の授業を見ていますと、「生徒が証明することができるようになる」ということにはたくさんの困難があり、指導に苦慮されることがあるようです。育成を目指す資質・能力には「数学を活用して事象を論理的に考察する力」とあります。この場合の論理的に考察する力とは、帰納、演繹、類推の3つを指す数学的推論を指し、図形の証明は事象を演繹的に考え成り立つ事柄を推論することであるといえます。その上で、中学校数学では、この演繹的に推論する力を育成することを大切にしているのだと思いますが、下のように考えてはいませんか。

【#13】若手先生の困り事相談 ~図形の証明における指導を考える①~02

 この矢印は正しい面もありますが、必ずしもそうともいえないですよね。それでは、図形の性質の証明について、実際の授業で考えてみましょう。

□「どうして証明をしなくてはならないの?」という疑問に応えている授業だろうか?

【#13】若手先生の困り事相談 ~図形の証明における指導を考える①~03

 上の図は、新しい数学2 p.105にある「三角形の角を説明する」の冒頭にあるものです。三角形の内角の和が180°であることは、小学校算数で学んできたことでありますが、どうして今更それを説明する必要があるのか、と考えてしまう生徒はいませんか。そのように考えること自体は悪くことではありません。そのことを利用して、様々な問題解決をしてきたはずです。教科書にある、はるかさんは、算数での学びを振り返り、それを関連させてよりよく説明することを促しているのですね。
 算数では、新しい算数5上 p.86に掲載されていますが、第5学年で三角形の内角の和が180°になることを学びます。このことについてどのようにして発見するのかというと、三角形を切って3つの角を1点に集めてみる、3つの角を分度器で測るといった方法で確かめています。教科書には、「いろいろな三角形をかいて・・・」とありますので、全ての三角形で確認をするのでなく、いくつかの三角形で調べていることから、類推的に考え見いだしたこととなります。
 この学習を受けて、中学校2年生の生徒にどんなことを語りかけますか。

【#13】若手先生の困り事相談 ~図形の証明における指導を考える①~04

 算数での「いろいろな三角形」では全てを調べ尽くすことができませんので、それをよりよく説明していこう、というのが中学校数学での演繹的な推論だと考えられます。新しい数学2 p.105において初めて「証明」という用語が紹介されますが、そこには「どんな三角形でも三角形の内角の和は180°であること・・・」とあります。つまり、「いろいろな三角形で」から「どんな三角形でも」と考察への方向性や対象が変わっていますね。算数の学びを大切にし、中学校数学の内容につなげる場面とすることが期待されます。
 中学校学習指導要領(平成29年告示)解説数学編には、「証明の必要性と意味を理解している」と、資質・能力として明記されています。証明の意味を教えるだけでなく、その必要性についても、授業の活動の中で生徒と一緒に考えてみてはいかがでしょうか。

※参考資料

  • 中学校学習指導要領(平成29年告示)解説数学編
  • 東京書籍 「あたらしい算数5上」
  • 東京書籍 「新しい数学2」

【佐藤寿仁先生 略歴】
岩手県公立中学校で11年、岩手大学教育学部附属中学校で6年教職を務め、岩手県岩泉町教育委員会指導主事、国立教育政策研究所学力調査官・教育課程調査官を経て、令和3年度より岩手大学教育学部准教授。学校教育の充実や現職教員の職業能力開発の支援から、全国調査など国の教育のアセスメントに関わり、これからの教育について幅広く研究を進めている。

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