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中学校

2023.06.13

【#5】若手先生の困り事相談② ~自力解決や比較・検討の場面を考える-後編~

「佐藤寿仁先生と考える」では、授業づくりのポイントや教科書の使い方などについて、連載していきます。現場の先生方は、大変お忙しくて教材研究する時間が取りにくいところかと思います。少しお時間をいただき、立ち止まって一緒に考えてみませんか。(佐藤寿仁)

 今回は、若手先生の困り事②「自力解決や比較・検討の場面を考える」の後編となります。引き続き、1年p.55,56の授業を例にして考えていきます。
 前編を未読の方は、こちらからご覧ください。

自力解決や比較・検討の場面を考える 〜場面設定の工夫〜

② 個や集団での学び場面を柔軟に考え、比較・検討を充実させる

 「問題把握→見通し→個人で→グループで→まとめ」という流れで進めることを優先する授業を参観することがあります。授業時間も決まっていますし、流れを固定することで安心する生徒もいます。しかし、この流れに固執しすぎないほうが良いと考えています。特に、「個人で→グループで」の場面で学習内容や生徒の理解の状況を把握しないまま進行すると、結果として、授業の最後に先生が数学的な結果や方法を伝えるだけの「教え込みの授業」になる可能性があります。私は、比較・検討して問題解決することを重視してほしいと考えています。これは「練り上げ」といわれ、問題解決に向かって生徒自身で真実に向かい、本質を見いだす場面になります。ひいては数学を創造することにつながる大切な場面です。しかし、話し合いの時間を設定したからといって、比較・検討したことにはなりません。

 教科書p.56では、平均を求める際の工夫についてグループで話し合い、その後、学級全体で共有します。ここでの共有は見いだした手続きの確認になりますので、例えば教科書にあるような問いを発問することで、本時の学びにおける本質に迫ることができます。

【#5】若手先生の困り事相談②~自力解決や比較・検討の場面を考える-後編~01
▲新しい数学1 p.56

 ここで、もう一度個人で考えるでもよいですし、再びグループで、もしくはペアで確認することもよいでしょう。

 グループ活動を進める際に、生徒が考えるべきことを見失ってしまうことはありませんか。これは、授業の流れを「個人で→グループで」と固定してしまった結果、考えるべき多くのことを1回の話し合いに詰め込んでしまうことで起こることです。生徒が、本質の理解に向かうためには個と集団の行き来を柔軟に考えて設定することが大切です。

 本時(教科書p.55,56)の学びの本質は何でしょうか。次の3つのことを考えることが大切です。

  1. (仮平均の考えを基に平均の計算を練習するのではなく、)平均の求め方の工夫を考えることを通して仮平均の考えを見いだすこと
  2. 負の数へ拡張させて、仮平均をどんな値にしても計算ができること
  3. 負の数へ拡張させたことで、仮平均の考えをさらに拡げることができたこと(統合的・発展的に考えること)

 授業で3つのことに気づかせたいのなら、これら全てを1回の話し合いの時間で考えるのではなく、学習内容と生徒の理解の状況に応じて場面を設定することで、自力解決や話し合いでの活動がよりよい比較・検討の場面となるのではないでしょうか。

【#5】若手先生の困り事相談②~自力解決や比較・検討の場面を考える-後編~02

③ 教科書を活用して、個や集団の探究的な学びを加速させる

 今回、例として取り上げた教科書p55,56の「身長の平均をくふうして求めてみよう」は深い学びとして掲載されています。仮平均を用いた平均の求めるための方法を考えることを通して、正負の数の有用性を理解できる学習です。実際の授業では、生徒が個人で考えたり、生徒どうしで話し合って進めたりすることがなかなか難しいこともあると思います。そのようなときは、先生が一方的に説明し教え込むのではなく、教科書を活用してみるのはいかがでしょうか。

 教科書p56にある、はるかさんやひろとさんの考えを例として取り上げ、「教科書のはるかさんやひろとさんはどのように考えているのでしょうか。グループで確認してみましょう」と問い、話し合う場面を設定することもよいでしょう。その上で、「はるかさんやひろとさんの考え以外に、みんなも考えられるかな?話し合ってみましょう。」と問うことで、基準となる仮平均を他の部員の身長などに設定して平均を考えるでしょう。さらに、「ひろとさんはどうして基準を150cmにしたのかな?」と問いかけ、話し合いの場面を設定できます。このように、教科書を活用して個や集団の考察場面を充実させることができます。このような協働的な学びにより、数学の学習に対してより主体的に取り組むようになり、問題解決を自分たちで力強く進めていくことができるようになるでしょう。

【佐藤寿仁先生 略歴】
岩手県公立中学校で11年、岩手大学教育学部附属中学校で6年教職を務め、岩手県岩泉町教育委員会指導主事、国立教育政策研究所学力調査官・教育課程調査官を経て、令和3年度より岩手大学教育学部准教授。学校教育の充実や現職教員の職業能力開発の支援から、全国調査など国の教育のアセスメントに関わり、これからの教育について幅広く研究を進めている。

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