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2026.01.29

【2026年度】大学入学共通テストの振り返りと分析〔数学Ⅰ,数学A〕

筑波大学附属駒場中・高等学校
須藤 雄生 先生

 本年度の大学入学共通テストは,共通テストとしては5年目,新課程が施行されて2年目の実施でした。昨年度は新課程初年度ということで大学入試センターが公表する問題作成方針にも多少の変化が見られたのですが,本年度は作成方針自体に目立った変化はありませんでした。
 一方で,昨年6月に公表された「問題評価・分析委員会報告書」では,共通テスト問題作成方針のひとつ「学習の過程を重視した問題の作成」が強調され,「『主体的・対話的で深い学び』の実現状況を共通テストによって評価するとともに,実現のための教材を提示しようという意図」(『数学Ⅰ,数学A』,『数学Ⅰ』まとめより,強調筆者)がはっきりと述べられています。
 もっとも,報告書には「マーク式テスト故の制約」(『数学Ⅰ,数学A』,『数学Ⅰ』まとめより,強調筆者),「問題作成に当たっては,履修内容や選抜試験としての問い方など様々な制約の中で行っている」(『数学Ⅱ,数学B,数学C』まとめより,強調筆者)といった,問題作成部会の率直なご苦労も垣間見えます。例年,ときには二律背反に陥りそうな条件や制約をもこえて,数学科における中等教育と高等教育の双方からの要求と期待に応えるべく,狭いところはときに身をよじりながらくぐり抜けて,作問を工夫されているであろう問題作成部会の先生方に,あらためて敬意を表します。
 以上を踏まえ,本稿では,選抜試験としての共通テストの性質に加え,現場の一教員として今後の教材開発や授業に生かしていけそうなことは何か,という視座も取り入れて,私なりの振り返りをしていきたいと思います。

数学Ⅰ,数学A

第1問〔1〕 集合と命題

 ここ何年か続いた平方根や多項式を扱う計算問題ではなく,集合とその要素に関する論理的思考を問うものでした。「1以外の正の公約数をもつ」「集合の要素に2の倍数も3の倍数もない」など,頭の中で像を結びにくい表現が多く,普段使わない思考を要求されたと感じる受験生が多かったかもしれません。
 それが集合の包含関係そのものに直結する思考ならよかったのですが,とらえにくかったのは整数の性質や知識・感覚に依存する内容だったのではないか,ということが個人的には少し気になりました。それもはかりたい学力のうち,と納得できるかどうかで,本問の評価は分かれそうです。
(もっとも本問にかぎらず,今年度はⅡ,B,Cの方も含めて,セットとしてだいぶ「これは全く問われていないが良かったのか?」という,出題の内容面での取捨選択で意見が分かれるところもありそうに感じましたが。)

第1問〔2〕 三角比

 内接円・傍接円に関する求値問題を下敷きにして,面積や長さを偏りなく取り入れた問題として仕上がっている印象です。大学入試センターが掲げる看板通り「学習の過程を重視」した出題であり,また教材事例としても深まりのありそうな題材であることには違いないのですが,「選抜試験としての制約」によってか,(2)(ii)では点Rの位置をいわゆる“ネタバレ”してしまっているところなど,苦しい部分も見られる問題でした。
 その(2)(ii)では「探究の2周目」にあたる部分を受験生自身が自力で回すにはあまりにも試験時間が限られており,これも「学習の過程を重視した出題」と「選抜試験としての制約」とが対立してしまった一つの表れかもしれません。解答欄[ネノ][ヒフ]に同じ数値が入ることなど,数値設定も少し掘ってみるとなかなか凝っていそうなことがうかがえるのですが,素敵な料理もおしゃれな内装も閉店時間5分前では落ち着いて味わえませんので,もったいない気がします。

第2問〔1〕 2次関数

 「最小値と最大値が与えられたとき,その2次関数を決定することはできるのか」という花子の課題設定からはじまる,「学習の過程重視」を体現したような出題でした。いわゆる逆思考という課題の立て方自体は小学校・中学校でもくりかえし出てくる発想かと思いますが,2次関数の最大・最小問題で逆思考の課題を立てた例は私自身あまり見たことがなく,まず素直に相当魅力的な設定に思えます。見たことがない設定,というと第1問〔1〕で述べたような,ともすれば「奇問」の類として扱われてもおかしくない問題ですが,解いていく過程でグラフの対称性や値の変化など,きちんと2次関数の内容理解に直結する思考が要求されるところが異なります。
 もっとも,この問題がはたして選抜試験としてどうであったのかというと,素材以外の要因がどこまで影響するのか読めない以上,是非はあると思うのですが,今後過去問として多くの数学教育関係者の目に触れることには,相応の価値があると感じます。「花子のような素朴な視点で課題を生み出す生徒が活躍できる探究の場を,私はつくれているだろうか」と考えると,数学の授業づくりという点で,教員として内容面以外にも思うところのある一題です。

第2問〔2〕 データの分析

 箱ひげ図や散布図の読み取り,そして「上から分散が小さい順に箱ひげ図を並べた」という文意の読み取りを中心に構成された問題でした。このセット全体のなかでは,本問が結果的に「現実事象の数学化」という文脈も,形の上では一手に引き受けたことになります。
 ただ,これは前年度の報告書で大学入試センター自体が述べていることですが,共通テストにおいては,データの収集やグラフの作成などの過程が省略され,与えられた素材の読み取りに偏った出題になるので,どうしても「なぜこのデータに対して箱ひげ図を用いてまとめたのか」「なぜ分散に着目して小さい順に並べたか」など,授業であれば重視されるであろう急所に,問題のなかでは迫っていけないという構造的な弱点があります。平たく言うと「統計分野については,共通テスト過去問を授業の素材として使うとしても,そのまま演習するだけでは足りない」ということであり,これを大学入試センター側も認識した上で作問している,ということを知っておかなければなりません。

第3問 図形の性質

 昨年につづき,まず巧妙に設定された空間図形の問題場面が与えられ,適切な平面を取り出して方べきの定理やメネラウスの定理,重心・内心の性質,円周角の定理の逆といった定番の知識を確認しながら,最後は探究の余白を残しつつひとまず問題としては締めくくる,という構成になっていました。本問の場合は,結果的に \(\text{IF:FP}\) と四面体 \(\text{PABC}\) の体積の変化について,何か一般化して性質が導かれるのかどうかについては述べられておらず,\(\text{IF:FP}=3\text{:}2\) と \(\text{IF:FP}=1\text{:}3\) という2つの「選び抜かれた美しい特殊な数値」の場合のみが問われています。見た目は第1問〔2〕に続いて「探究の2周目」を回してみよ,という設問に見えますが,主課題が「 \(\text{IF:FP}\) の比と四面体の体積の変化の関係は?」であることを思い出すと,実はまだ探究の2周目は始まっておらず,「珍しくこんなに体積がきれいになる数値が実はもう1つあります」という “寄り道” をしているにすぎない,とも言えます。そう考えると,最後の設問はむしろ「選抜試験としての機能」を優先したと考えたほうがよさそうです。
 ほかにも,昨年も本稿で述べましたが,この場面において「特殊な状況」は主課題に対してどのようにはたらくか(本問の場合は,特に \(\triangle \text{ABC}\) が二等辺三角形であることは関係するかどうか)も,教材として利用するときは検討事項に加えたいところです。

第4問 場合の数と確率

 A,B,Cの3者(後半からDも加えた4者)が,Aのみ勝ちやすいという非対称な状況下で総当たりのリーグ戦を行うという設定でした。場合分け自体は自然な流れになってはいたものの,問題の構成が「長い一本道」となっているうえ,途中からどんどん誘導の道標が消えていくような問題文になっていて,作業量を見積もって解くことが難しい構成に思えました。
 最後に3者の場合と4者の場合での確率の変化が問われていることからも,本問を教材として授業で扱うのであれば,「5者の場合はどうなるか?」という課題に向かうのが自然かと思いますが,他にも「A,B,C(,D,…)各者の勝率を変えた場合はどうなるか?」「それぞれが2回ずつ対戦することにするとどうなるか?」といった発展課題はいくつか考えられます。特に,4者のときAが優勝する確率が,3者のときよりも小さくなる,という本問の最後の結果は,よく考えれば直観に反しています(Aだけ他者全員より勝率が高いということは,本来「平凡な他者」が多ければ多いほど「ただ一人の強者A」は優勝しやすくなるはずです)。こうなると人力というよりは,表計算やプログラミングといったICTの活用で解決,あるいは実験するような発展課題も考えられそうです。
 いずれにせよ,このところ場合の数・確率については「数え方の論理」を重視する出題の流れを感じていたので,それに比べると本年度はだいぶ「手を動かして数え上げる」方に寄った場面設定のように感じました。


 以上,独断や偏見も織り交ぜた各問に関する振り返りを文章にしてみました。前提知識の不足や分析の不足などありましたらお寄せいただき,よりよい吟味と議論につなげていければ幸いです。

※「数学Ⅱ,数学B,数学C」の振り返りと分析については,2月5日に公開予定です。

参考資料

令和7年度 大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト問題作成方針(大学入試センター発表)
令和7年度 大学入学共通テスト問題評価・分析委員会報告書(大学入試センター発表)
令和8年度 大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト問題作成方針(大学入試センター発表)

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