
9月は共通テストの出願が始まったり,生徒たちが出願書類用の写真を撮影したりと,急に入試シーズンが近づいた感じがしますね。
こんにちは。大山です。今回のテーマは,幾何条件の数式化です。
図形の式
座標平面(空間)における直線の式や放物線の式,ベクトル分野におけるベクトル方程式,複素数平面上の円の式や直線の式など,図形を表す式を数多く扱いますが,そもそも「図形の式」とは何でしょうか?
大山は「図形の式」を
その図形上の任意の点が満たすべき必要十分条件を表す式
と説明しています。
例えば「点 \(\text{A}(a, b)\) を中心とする半径 \(r\) の円」の式は,この円上の任意の点 \(\text{P}(x, y)\) が満たすべき必要十分条件
中心 \(\text{A}\) から点 \(\text{P}\) までの距離が一定の値である ……(*)
を数式化した
\(\vert\overrightarrow{ \text{AP} }\vert = r \ \ \ \cdot\cdot\cdot\cdot\)①
が考えられます。さらに,2点 \(\text{A, P}\) の座標から
\(\overrightarrow{ \text{AP} }=\begin{pmatrix}x \ – \ a \\y \ – \ b\end{pmatrix}\)
であるので(大山は座標と成分の混同を避けるため,座標は横ベクトル表記,ベクトルの成分は縦ベクトル表記をしています),①は
\(\sqrt{(x-a)^{2}+(y-b)^{2}}=r \ \ \ \cdot\cdot\cdot\cdot\)②
とできます。この両辺は正なので,2乗しても同値です。よって
\((x-a)^{2}+(y-b)^{2}=r^{2} \ \ \ \cdot\cdot\cdot\cdot\)③
という式が得られます。
つまり,(*)という幾何条件を数式化した結果の③が,円の式ということになります。
なお,①②③はすべて同値なので,「円の式を答えよ」という問いに対して生徒がどれを答えてきても,大山は正解にするべきだと思っています。
また,複素数平面では,\(\text{A}(α), \text{P}(z)\) として,①を
\(\vert z-α \vert=r \ \ \ \cdot\cdot\cdot\cdot\)④
と表せます。
結局,①~➃はすべて,条件(*)の数式表現になっています。このように,図形を数式で表現する分野は,各図形の数式を覚えることが大切なのではなく,その図形上の任意の点が満たすべき必要十分条件を把握することが大切です。
ちなみに大山は「図形の方程式」とは言わず,「図形の式」と言うことが多いです。それは,例えば「単位円の上半分」であれば
\(\begin{cases}x^{2}+y^{2}= 1 \\ y \geqq 0 \end{cases}\)
という,等式と不等式を連立した条件で表すことになるので,方程式ではありません。こういう場合もあるので,大山は生徒たちに「方程式で図形を表せる」というイメージを持たせたくないのです。その為,「図形の式」と説明しています。
さて,以上の話は空間の中でも同様です。次の問題は,(座標空間内の)球面の方程式は
\((x-a)^{2}+(y-b)^{2}+(z-c)^{2}=r^{2}\)
であると丸暗記していると混乱する可能性のある問題です。
図形の式の丸暗記でなく,(1)の点 \(\text{Q}\) と(2)の点 \(\text{P}\) はそれぞれどのような条件を満たすべきかという視点で取り組むと解決策が見えてきます。(解答例はこちら)
交点の表現
例えば,座標平面において2直線 \(l:y=2x+1,m:y=-x+7\) の交点 \(\text{P}\) の座標は,グラフの様子を描かなくても,連立方程式
\(\begin{cases} y = 2x + 1\\ y = -x+7 \end{cases}\)
を解くことで得られます。これは
\(\begin{cases} \text{点Pは直線}l\text{上にある} \\ \text{点Pは直線}m\text{上にある} \end{cases}\)
という条件を数式化したものです。
さて,次のようなベクトルの頻出問題をどのように指導していますか?
「まず図を描け」と指導する人が多いようですが,これはベクトルの学習の初期段階では大切なことだと思いますが,ある程度慣れてきたら,むしろ図を描かずに計算で解く練習をするべきだと大山は考えています。
図を描いて解くことを前提にしてしまっていると,特に空間図形などで図が分かりにくいものや,そもそも抽象的な条件の問題に対応できなくなってしまいます。ベクトルは図を描かなくても計算できる道具なのです。(もちろん,問題によりますが。)
大山はこの方針で指導するので,よくある「\(t:(1-t)\) とおく」解法も好きではありません。なぜなら,「\(t:(1-t)\) とおく」は内分点であることが分かっている前提,つまり,図を描くことを前提とした解法になっているからです。(実際には外分点であっても同様におけますが,それがスムーズにできる生徒は少ないでしょう。)
この解法に慣れすぎると,交点が三角形の外にできる問題や,空間内での直線の扱いに困ることになります。
したがって,大山は次のように解説します(実際には情報の整理のために図も描きますよ)。
直線上の点を実数倍で表し,差の表現によって始点変換することで,「\(t:(1-t)\) とおく」「内分の公式」「係数の和が1」などの小賢しいテクニックが不要になり,何より図が分からなくても条件を数式化することで解けるということを実感してもらいやすくなります。そして,冒頭で紹介した座標平面上の2直線の交点の求め方と,このベクトルの解法が本質的に同じことであると理解してもらいやすくなります。
このように仕込んでおくと,空間内の直線のベクトル方程式(大山はこの言葉を使用するわけではありませんが)もすんなりと受け入れて,次のような問題に繋がります。
(1)(3)は内積の話も必要ですが,今回のテーマとしては(2)です。「\(t:(1-t)\) とおく」解法では対応しづらい問題です。
直線上の点を実数倍で表し,交わるかどうか,つまり,交点をもつかどうかは連立方程式の解の存在で調べられるということに考えが至れば勝ちです。(解答例はこちら)
さらに,直線と球面の交点を調べる次のような問題にも繋がります。
\(xy\) 平面上の点 \(\text{R}\) が描く領域を求めるのだから \(\text{R}(X, Y, 0)\) とでもおいて,直線 \(\text{PR}\) と球面が共有点をもつ(この共有点が \(\text{Q}\))と考え,\(X\) と \(Y\) の関係式が得られればOKです。(解答例はこちら)
第11回は以上になります。我々指導者は,それなりに数学が得意だから指導者になっていて,その為,図形の様子も見えてしまっていることが多いものです。そして,そのことに頼った解法を紹介しがちです。もちろん,それが有効な生徒もいるでしょうが,生徒たちが自分自身で解けるようになる為に必要なことはウマい解法ではなく,原理・原則の理解とパワフルな計算力だと大山は考えます。
次回はいよいよ最終回です(読者アンケートが悪くて打ち切られるとかではないですからねっ!)。お楽しみに♪
宇都宮北高校,東北大学理学部数学科卒。
2006年度から代々木ゼミナールの講師となり,現在は新宿本部校と札幌校に出講しています。対面・映像の授業の他にも,テキスト・模試・解答速報の作成なども行っています。
もっと毒をはいている大山を見たい方は,X(旧Twitter)をどうぞ!→ @dan_oyama_0206
《著書》
・『全国大学入試問題正解』(旺文社)解答執筆(京大,一橋大,東北大など)
・『整数分野別標準問題精講』(旺文社)
・『全レベル問題集 3』(旺文社)
・『全レベル問題集 5』(旺文社)
・『大山壇の基本から身につける計算力IA』(KADOKAWA)
・『大山壇の基本から身につける計算力IIB』(KADOKAWA)
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