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子どもの考えをひき出す発問
今回のトークセッションでは、佐藤寿仁先生と井上浩太先生に「発問」を中心としてさまざまな教育的な課題を話していただきました。第1回は、井上先生が課題意識を持たれている「子どもの考えをひき出す発問」をテーマに語っていただきました。
― 今回は、井上先生から「発問」についてテーマをいただきました。このテーマに設定した意図を教えてもらえますか。
井上浩太:本校の研究主題が「豊かな未来社会を切り拓く生徒の育成」で、ウェルビーングや持続可能な社会の創り手を柱として、副題に「総合的な学習の時間」の探究を扱っており、各教科においても自律的な学習者を育むための探究について研究しています。数学科としては、新たな数学の創り手を、ウェルビーングや持続可能な社会の創り手と掛けて、新たな数学を生徒自身が獲得していくような授業作りを目指しています。
井上浩太:探究的な学びについては多様な捉え方がありますが、生徒任せの授業になると、数学がすごく浅いものになることがあるので、数学を深めていくために見方・考え方に着目して、生徒が見方・考え方を働かせるためには、「発問」が重要な鍵を握っていると考えて研究しています。6月に3年生の公開授業があるので、そこで平方根の研究授業を行う予定です。
― お話しいただきました通り、「生徒の考えを引き出す発問」について、平方根の場面を例として進めていきます。附属中学校のほうでは、自由進度学習を進められているようですが、数学科は自由進度学習ではないということなんです。
井上浩太:そうではないですね。
― 他の教科が進めている自由進度学習はいかがでしょうか。
井上浩太:単元内自由進度学習か1時間の自由進度学習を実践しています。1単元と1時間で違いはあると思うんですけど、教科によっては生徒に学び方を選ばせることを進めています。数学科の昨年度の研究発表会では、データの活用領域で実践しました。生徒に任せて多様な問題解決を進めてみて、でもどれも納得いかないという雰囲気になったときに、教師が発問で生徒の考え方を深められるようにしました。ある程度の活用であれば、生徒に任せることもできるところがあるかなと思います。
― 佐藤先生はいかがですか。自由進度学習は、以前のトークセッションでも出てきましたね。今、いろいろなところで聞く機会が増えてきました。
佐藤寿仁:そうですね。「子どもの学び方」を私たちが検討することは大切なことですし、学習が子どもの手により委ねられるようになることは求められていることです。それが「=自由進度学習」なのかという話はちょっと置いておきますね。先ほど井上先生がおっしゃったように、懸念されることは「浅い学び」になってしまってはいないかということです。いつの時代も新しい手法(教育方法)には、注目が集まるものですね。また、子どもに委ねるか委ねないか、教えるか教えないかのような二項対立に陥ってしまって、結局、指導のHow toのようなことになりがちだと感じています。ですので、いろんな指導法があってもよいと思うのですが、基本的には子どもが学びを自分で深めていけるようにするために、我々、教師がどう立ち振る舞うかということを議論する方が大事だと思っています。
― データの活用領域だと生徒が自分で問題解決を進めやすいと思いますが、他の領域、例えば数式領域だとどうでしょうか。
井上浩太:そうですね。数学の学習内容によると感じています。データの活用は幅広く学習内容を扱うことができると思うんですけど、数と式領域はカチッとしてるといいますか、押えないといけないことが多くあるので、そういう違いだと思っています。
佐藤寿仁:研究授業が平方根だということですが、私は平方根の学習で計算のきまり、原理、原則の習得場面においても、探究的に学ぶことはできると考えています。「計算方法は教える。」と決めつけてしまわないようにしたいですね。井上先生が「数学の創り手」になるという話をされましたね。すごく大事だと思います。平方根の加法や乗法の計算のきまりも学んだことを手がかりにしながら、子どもが自分で原理・原則を発見して生み出していくということはとても大切なことです。
井上浩太:その通りだと思います。数学では1単元全部を生徒にゆだねるのではなく、1時間のなかの少しの時間を生徒に委ねてみようと考えています。例えば、平方根の単元では乗法ができる点は教えて、加法ができない理由を探ることは生徒に委ねて、面積図とかも使いながら解決したいと考えています。
佐藤寿仁:平方根の乗法と加法のつなぎ目も大事ですよね。そこで子どもが「じゃあ、これが加法だったら計算はできるのかな」という発想になるかどうかが大切だと思います。これが生まれる「問い」になるのだと思います。教科書は、たいへんよく整理されているため、一見そのようには見えないかもしれないけど、ある”問い”が次の”問い”へとつながり、連続性のあるものになっています。ですので、子ども自ら問いを持つことができたらとてもよいことだなって思います。
井上浩太:そうですね。佐藤先生から指摘していただいた、生徒が問いを持てるように教師がどう発問すればいいのかということを研究しています。今、着目してるのは指導要領解説にある「簡潔、明瞭、的確」の視点を発問に取り入れることを考えています。例えば「簡潔」の視点であれば「どちらが簡単ですか」とか「どちらが分かりやすいですか」という問いかけの工夫を考えています。先ほどのたし算の部分で扱うのであれば「本当に正しい?」のような「的確」の視点で発問することはどうかと研究してるところですね。
佐藤寿仁:井上先生がおっしゃられた通り、確かに「簡潔、明瞭、的確」ってすごく大事ですよね。「簡単に言うとどういうことですか」とか、「まとめるとどういうことですか」というのは、教師が問わないといけないことですね。例えば、公式をつくる場面において、「簡単に言うとそれはどういうことですか」と発問するとき、その奥深さは何かと言うと「一般的に表すこと」や「何かの条件で決まること」などであり、そのような味わい方を子どもたちとできるかが重要になるのだと思いました。先ほどの平方根の発問、「加法だったら計算はどうなるだろう」は、子どもがいきなり自分から問うことは難しいと思うのですよ。これは、子供がこれまでに「条件を変えて考えること」を教師からの発問として問われたことがあるかどうかによるのです。これまでの学習で「他にはどうですか」とか、「他の計算(四則計算)だったらどうでしょうか」という発問は、中学校3年間だけでなく、小学校算数からずっと繋いでくる見方だと思います。
発問は「何を狙った発問なのか」が大切で、それが数学的な見方・考え方を促すものになります。これを、授業者が明確にしてほしいと思っています。
― 中学校3年までで、新しい数を知ったらきまりや四則を考えてきていますが、子どもたちがそういうことを自覚していないと平方根で急に「考えなさい」と言われても難しいですね。
佐藤寿仁:そうですね。算数の学習からずっと「数の世界」を拡げて考えようとする態度は、何か必然性があって生まれる問いですよね。教科書を通じて必要な場面に出会って初めて、数の範囲を拡げて考えていきますよ。そして、数を拡張させた後に、今度はその数を使う問題解決を進めるようになれば、取り入れた数の計算は可能なのかどうかという問いに変わる。実は同じ思考を繰り返してきたはずなんです。
佐藤寿仁:教科書での平方根の学習の場面でいえば、導入の正方形をかく活動があります。正方形をかくことができますし、その面積もわかります。しかし、「かいた正方形の1辺の長さは?」って教師が問うと「えっ」となり答えられず困ってしまう姿がみられますよね。この「えっ」っていうのが大事で、これを引き出すために、どのように発問しているかどうかなのですね。そして、それは中学校3年生になって初めて行うことではないことを期待しています。中学校1年の負の数の導入の場面もそうですよね。だから、数の拡張させて考えるというのは、数学的な考察の文脈の中で必然的に出てくるものであり、授業ではこの文脈で問題解決の場面を設定してこれたのかどうかが鍵になると思います。これらのことを踏まえると、各章で導入が勝負になると私は考えます。導入場面を適当に扱ってしまうと、ただ計算方法について教えられる授業が続くことになってしまうのです。よって導入が大事であるといつも思っています。
― 計算方法について教えられる授業は、生徒はしんどいと感じてしまいますね。
佐藤寿仁:そうそう。それだと授業は本当につまらないですよね。だから、数学の創り手になるっていう、井上先生のおっしゃったことはとても大事だなと思います。それは子どもが主役になるってことですよね。その考え方の転換は教育にとってとても大事なことですね。
井上浩太:そうですね。そのためには、子どもに必要性を実感させるっていうとこですよね。
― 井上先生はその平方の導入、新しい数を見出す場面で、どういうことを意識して授業なされてますか。
井上浩太:どの単元もそうなんですけど、単元の導入は必要性を感じさせることを意識してます。平方根であれば、数の世界がひろがって今までになかった数で、生徒が「あれっ」て感じるずれを実感させるっていうところから入ります。題材は、何を使うかは生徒の実態によって様々ですが、自分がこの学校に来て初めて3年生を指導したときは、教科書と同じ正方形をかく題材から入りました。単純なんですけど、テストで高得点を取れるような子どもたちでも、自分のことばで説明できないことが多かったです。
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生徒の数学が動き出す!発問のチカラ Vol.2 生徒に委ねるための発問
Profile
佐藤 寿仁 Toshihito Sato
岩手県公立中学校で11年、岩手大学教育学部附属中学校で6年教職を務め、岩手県岩泉町教育委員会指導主事、国立教育政策研究所学力調査官・教育課程調査官を経て、令和3年度より岩手大学教育学部准教授。
井上 浩太 Kouta Inoue
公立中学校勤務9年、令和元年度福岡教育大学附属福岡中学校にて長期派遣研修、令和5年度より福岡教育大学附属福岡中学校にて専任教諭です。
数学的な見方・考え方を細かく捉え直しています。
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