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- 【#37】若手先生の困り事相談 ~不確定な事象を考…

「佐藤寿仁先生と考える」では、授業づくりのポイントや教科書の使い方などについて、連載していきます。現場の先生方は、大変お忙しくて教材研究する時間が取りにくいところかと思います。少しお時間をいただき、立ち止まって一緒に考えてみませんか。(佐藤寿仁)
今回は、若手の先生からいただいた困り事について、考えてみたいと思います。
不確定な事象を考察すること 〜データの活用:確率〜 ③

Q 「データの活用」の領域の「確率」の単元テストをつくる際のポイントを教えてください。
A 評価の観点のバランスなどポイントはたくさんあります。その中の一つとして、「不確定な事象における事柄の起こりやすさを考察できるかどうか」について評価する問題をつくってみませんか。
前回は領域「データの活用」の1年生の学習内容について取り上げ、授業づくりのポイントを紹介しました。今回は2年生の「確率」です。これから単元テストや期末テストなど総括的評価に関わるテストを実施する時期です。テストの問題づくりの工夫について紹介します。
□何を評価するのかを明確にする
中学校学習指導要領(平成29年告示)解説数学編では「データの活用」での指導の意義について前回、前々回と確認しましたね。2年生の確率というと、どうしてもその計算ばかりに目がいってしまい、単元テストなどもそのような問題ばかりになっていませんか。
- 日常生活においては、不確定な事象についてデータに基づいて判断する場面が多いので、目的に応じてデータを収集して処理し、その傾向を読み取って判断することが有用であること。
- よりよい解決や結論を見いだすに当たって、データに基づいた判断や主張を批判的に考察することが有用であること。
2年生の確率において、どのような評価規準が設定されるのか、「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料(中学校数学)」には下のような記載があります。

指導される先生は、これを参考にして具体的な項目を設定、指導し、達成されたかどうかについて生徒の具体的な姿で評価する「指導と評価の一体化」を進めていると思います。特に、知識・技能の「簡単な場合について確率を求めることができる」に偏らないよう、バランスよく資質・能力を育成することが大切です。思考・判断・表現の「確率を用いて不確定な事象を捉え考察し表現することができる。」は単に確率の計算ではなく、それを用いて説明する記述式の問題を課す必要があるでしょう。このような趣旨で問題作成することは、先生にとってとても大変で時間のかかることかもしれません。しかし、数学教師として大事な力でもあります。育成を目指す資質・能力を明確にして指導し、それを確実に評価し生徒にフィードバックできるようなテスト問題をどのように進めるとよいのでしょうか。
□既存の数学の問題を評価項目によってアレンジ
テスト問題の素材は至るところにあります。だからといって、なんでもよいというわけではありません。まさに指導と評価の一体化です。教科書にもたくさんの問題が掲載されています。例えば、思考・判断・表現の「確率を用いて不確定な事象を捉え考察し表現することができる。」についての評価問題を考えるために、『新しい数学2』の第6章「起こりやすさをとらえて説明しよう」の章の問題に注目します。教科書に掲載されている問題は、よく練られた問題ばかりです。
具体的に第6章「章の問題Aの4」を取り上げてみましょう。この問題は、第1節第2項「いろいろな確率」で学習したことを評価するものです。生徒は、ある事象が起こる場合について、起こり得る場合のすべてを落ちなく数え上げ、的確に確率を求めることが期待されます。実際の問題は、下のとおりです。

第6章「章の問題Aの大問4」
この問題は、確率を的確に求めることができるかどうかをみるものです。男女でのペアをつくる際にA、B、CそれぞれとD、Eがペアを組むことができますので全部で6通りです。そのうちAとEの組み合わせは1つですので、確率は \(\dfrac{1}{6}\) です。この問題にどのような工夫を加えることができるでしょうか。
① 結果の成り立ちを問う
確率のみを問うと、どうしてそう解答したかを評価できないことがあります。例えば、\(\dfrac{1}{6}\) の「\(1\)」、「\(6\)」はどのようにして見いだしたのかを問うこともよいでしょう。その際には、樹形図などの図を明記して説明できたかどうかをみとることができます。
② 事象の起こりやすさを、確率を用いて判断できるかどうかを問う
「AさんとEさん、BさんとEさんのどちらのペアになりやすいか」を問うこともできます。確率を計算しなくても、起こりやすさは同じであると思うかもしれませんが、何となくではなく確率を用いて説明することで伝わることのよさがあります。
また、もとの問題は男女でペアをつくりますが、男女関係なくペアをつくると状況を変更したとき、AさんとEさんがペアになるのは、どちらの状況が起こりやすいかを問うこともできます。これも確率を求め、その大小関係を基に判断することができるかどうかを問うことができます。
単元テストなどの総括的評価の場面では、総合した点数でなく一つ一つの問題に「指導と評価の一体化」の意味を込めて評価テストを実施することが大切です。しかし、1から全てを作成することはとても難しい場合もあります。教科書などに掲載されている問題をもとに、育成する資質・能力と照らしあわせ、検討するとよいでしょう。
※参考資料
- 新しい数学2(東京書籍)
- 中学校学習指導要領(平成29年告示)解説数学編
- 「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(中学校数学)
【佐藤寿仁先生 略歴】
岩手県公立中学校で11年、岩手大学教育学部附属中学校で6年教職を務め、岩手県岩泉町教育委員会指導主事、国立教育政策研究所学力調査官・教育課程調査官を経て、令和3年度より岩手大学教育学部准教授。学校教育の充実や現職教員の職業能力開発の支援から、全国調査など国の教育のアセスメントに関わり、これからの教育について幅広く研究を進めている。
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