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- 【#35】若手先生の困り事相談 ~不確定な事象を考…

「佐藤寿仁先生と考える」では、授業づくりのポイントや教科書の使い方などについて、連載していきます。現場の先生方は、大変お忙しくて教材研究する時間が取りにくいところかと思います。少しお時間をいただき、立ち止まって一緒に考えてみませんか。(佐藤寿仁)
今回は、若手の先生からいただいた困り事について、考えてみたいと思います。
不確定な事象を考察すること 〜データの活用:確率〜 ①

Q データの活用の領域では、1、2年生のどちらにも確率の内容が設定されています。確率の求め方ばかりが指導の中心になってしまいます。どのような授業をすればよいのでしょうか。
A 確率を的確に求めることも大切ですが、不確定な事象を考察する場面を設定し確率を学ぶ意義を感得できるような授業づくりが大切です。
どの学年の数学の授業も学習内容の終盤に入ってきていると思います。今回から、領域「データの活用」、特にも「確率」の指導について、みなさんと一緒に考えていきます。
□確率を学ぶことの意義
子どもたちは、どうして確率を学ぶのでしょうか。もちろん、指導者として考えれば、学習指導要領を理由にすることでしょう。それは間違ってはいません。このとき、内容的なことを中心として学習指導要領をみるのではなく、目の前の子どもたちにとって、どのような学ぶ意義があるのかについても考えるべきです。中学校学習指導要領(平成29年告示)数学解説編では、各領域における内容の概観が示され、そこに「データの活用」での指導の意義について、下の2点のように説明されています。

上のことは、今後の社会を生き抜く子どもたちのことを想うと、とても大切なことであると思いますね。「VUCA(ブーカ)」という言葉を聞いたことがありますか。「VUCA(ブーカ)」とは「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取った言葉で、予測困難な状況を指します。もともとは冷戦時のアメリカ*で言われていたことだそうですが、現代では多くはビジネスシーンで使われるようになり、新型コロナウイルスのパンデミック、社会のデジタル化での先を読むことができない状況に対応すべく重視されることです。「VUCA(ブーカ)」を考えますと、データの活用が果たす教育的な意義や子どもたちができるようになるべきことは、「資質・能力が単に確率を計算したり、ヒストグラムや箱ひげ図をつくることにとどまらないようにすること」といえます。
*アメリカ陸軍の戦略研究所
□確率の意味を理解すること
中学校での確率の授業を参観すると、多くの生徒が楽しそうに生き生きと授業に参加していることを見かけ、とても嬉しく思います。ところが、確率の意味の理解や、算出された確率の値を解釈する姿をみていると、気になることがあります。例えば、少し前になりますが、平成27年実施の全国調査において、下のような問題が出題されました。

平成27年度全国学力・学習状況調査問題A問題15(2)
この問題における出題の趣旨は、「多数回の試行の結果から得られる確率の意味を理解しているかどうかをみる」です。正答は「オ」で、その反応率は55.8%と低く、指導に課題があるとして公表されました。誤答としては、「イ」の反応率は22.3%、「ウ」の反応率は10.3%でした。特に「イ」について、こんなにも反応することに驚きます。1の目がでる確率が \(\dfrac{1}{6}\) であることを捉えること困り感を持っている生徒がいるのではないでしょうか。
どの面が出ることが同様に確からしいとされるさいころを投げたとき、1の目が出る確率はもちろん、\(\dfrac{1}{6}\) です。これを考える際に、生徒はさいころには6面あり、そのうちの1面であることから確率として求めると \(\dfrac{1}{6}\) ですが、「このさいころを実際になげてみると…」ですので、数学的確率である \(\dfrac{1}{6}\) になるというよりも、 \(\dfrac{1}{6}\) がその程度を表すものと理解することが大切です。このような理解の困難を示す生徒には、授業にどのような指導の工夫が必要でしょうか。生徒が確率の意味を理解することができるようにするために、ある試行を多数回繰り返したとき、試行回数全体に対するある事柄の起こる回数の割合が一定の値に近づいていくことを、観察や実験などを通して捉える活動を取り入れることが対策の一つです。いわゆる、実感を伴って理解することができるように場面を設定することです。
生徒には同様に確からしいときに用いる、下のような数学的な確率についての印象が強いのでしょうか。

新しい数学2 p.163
多数回の試行によって得られる確率の学習は1年生です。同様に確からしいとき用いる数学的な確率の学習は2年生です。1、2年生の学習の接続とそれぞれの授業づくりについて、工夫が求められます。
次回は、1年生の多数回の試行によって得られる確率の指導について考えます。
※参考資料
- 新しい数学2(東京書籍)
- 平成27年度全国学力・学習状況調査解説資料中学校数学(国立教育政策研究所)
- 平成27年度全国学力・学習状況調査報告書中学校数学(国立教育政策研究所)
【佐藤寿仁先生 略歴】
岩手県公立中学校で11年、岩手大学教育学部附属中学校で6年教職を務め、岩手県岩泉町教育委員会指導主事、国立教育政策研究所学力調査官・教育課程調査官を経て、令和3年度より岩手大学教育学部准教授。学校教育の充実や現職教員の職業能力開発の支援から、全国調査など国の教育のアセスメントに関わり、これからの教育について幅広く研究を進めている。
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