特集記事(小中学校)

中学校

2024.09.26

【#29】若手先生の困り事相談 ~令和6年度全国学力・学習状況調査の結果を生かした授業づくり①~

「佐藤寿仁先生と考える」では、授業づくりのポイントや教科書の使い方などについて、連載していきます。現場の先生方は、大変お忙しくて教材研究する時間が取りにくいところかと思います。少しお時間をいただき、立ち止まって一緒に考えてみませんか。(佐藤寿仁)

 今回は、若手の先生からいただいた困り事について、考えてみたいと思います。

令和6年度全国学力・学習状況調査の結果を生かした授業づくり①

【#29】若手先生の困り事相談 ~令和6年度全国学力・学習状況調査の結果を生かした授業づくり①~01

Q 今年度の全国学力・学習状況調査の結果が届きました。自校の結果について分析することは大切だとは思うのですが、どのように活用するとよいのでしょうか。

 全国学力・学習状況調査は、生徒の学力や学習の状況を把握し、先生がそれを踏まえて学習指導するためのものです。設問一つ一つの結果をみて、生徒のつまずきを解消できるよう指導するとともに、指導の改善・充実に取り組みましょう。

 令和6年度全国学力・学習状況調査の結果について、みなさんの学校にも届いていることと思います。校内では、その結果をどのように受け止め、活用しているでしょうか。調査問題を作成している国立教育政策研究所では、調査実施日に「解説資料」を発行しています。そこには、以下のようなことが書かれています。

 本調査は、小学校においては第5学年まで、中学校においては第2学年までに、十分に身に付け、活用できるようにしておくべきと考えられる内容を出題していますので、調査の対象学年だけではなく、全学年を通じた学習指導の改善・充実を図るための参考とすることができます

(令和6年度全国学力・学習状況調査解説資料より)

 このことから、実際に調査を受けた3年生への生徒には、結果に応じた個別の指導が行うこと、また、調査結果から明らかになったつまずきを具体的に把握し、それを生かした授業づくりをすることを大切であることがわかります。全国学力・学習状況調査というと、平均正答率の比較ばかりが話題になってしまうのですが、生徒一人一人のために“調査結果の活用”について考えてみましょう。

□中学校数学大問3「回転移動」について

【#29】若手先生の困り事相談 ~令和6年度全国学力・学習状況調査の結果を生かした授業づくり①~02

令和6年度全国学力・学習状況調査問題大問3

 これは、今年度出題された第1学年の図形領域、回転移動の理解を評価する問題です。回転移動は過去の調査問題において何度か出題されおり、そのたびに課題があることが報告されてきました。この問題の正解は「ウ 頂点 \(\text{C}\)」で、正答率は68.7%でした。誤答では、「イ 頂点 \(\text{B}\)」と解答した反応率は12.2%、「エ 頂点 \(\text{D}\)」と解答した反応率は10.7%でした。また、平成26年度の調査では、下のような問題が出題されました。問題の内容は、今年度と同じで、回転移動したときの図形の対応について答える問題ですが、対象となる図形が異なります。正答は「ウ \(\angle \text{C}\)」で正答率は42.9%で、誤答の「ア \(\angle \text{A}\)」を選んだ生徒の割合は49.6%でした。

【#29】若手先生の困り事相談 ~令和6年度全国学力・学習状況調査の結果を生かした授業づくり①~03

平成26年度全国学力・学習状況調査問題A4(3)

 どうしてこのように解答するのでしょうか。回転移動を理解することについて、図形を視た印象で捉え、誤答する傾向にある生徒がいるといわれています。特に、平成26年の調査問題では、移動後の四角形 \(\text{ABCD}\) の \(\angle \text{A}\) と移動前の四角形における \(\angle \text{P}\) は同じ大きさのようにも視え、誤答したと考えられるのです。

「回転移動」に関する調査結果を生かした授業づくり

 回転移動の理解、生徒の困り感はどこにあるのでしょうか。ある図形を“回転させて移動する”といった捉えでとどまってしまっているのではないでしょうか。図形の移動には平行、回転、対称と3つの移動があり、これらの移動で重ね合わせることができる図形が合同であるという合同変換につながる学習です。回転移動の理解には、回転移動に「回転の中心、回転の向き、回転角の大きさできまる」という性質があることを見いだすことが必要です。そのために、移動前の図形と移動後の二つの図形の関係に着目して、図形の移動について考察する活動を設定するとよいでしょう。
 そのために授業では、生徒が実際に図形を動かし、それを観察して回転移動の特徴を捉えることが大切です。下のように、Dマークコンテンツを1人1台端末で利用して、回転移動について考察する場面を設定することができます。

①\(\triangle \text{ABC}\) について、回転の中心(青の点)を設定する

【#29】若手先生の困り事相談 ~令和6年度全国学力・学習状況調査の結果を生かした授業づくり①~04

②\(\triangle \text{ABC}\) を回転の中心(青の点)を設定して回転させてみると…

【#29】若手先生の困り事相談 ~令和6年度全国学力・学習状況調査の結果を生かした授業づくり①~05

③回転角の大きさは…?

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「新しい数学1」 Dマークコンテンツ「対称移動について考えよう」

 このコンテンツでは、「対称移動について考えよう」というタイトルですが、単元の導入から考察の対象としてきた正六角形を用いて、平行移動、回転移動、対称移動のすべての移動について考察します。回転移動では、自分で回転の中心を設定し、図形を回転させることができます。三角形オを移動前の図形として、図の青の点を回転の中心として回転させると、③のように移動後の図形として正六角形の内部にある三角形を捉えることができます。この2つの図形の関係に着目することで、回転移動は「回転の中心、方向、回転角の大きさ」で移動後の図形が1つにきまることを発見するでしょう。さらに、この図を例にして、回転移動での移動前と移動後の図形における対応する点に着目し、回転移動では対応する点は回転の中心から等距離にあることや対応する点と回転の中心を結んでできる角の大きさが等しいことを捉え、回転移動の理解を深めていくのです。

【#29】若手先生の困り事相談 ~令和6年度全国学力・学習状況調査の結果を生かした授業づくり①~07

Dマークコンテンツ「対称移動について考えよう」はこちら

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※参考資料

  • 平成26年度全国学力・学習状況調査報告書中学校数学(国立教育政策研究所)
  • 令和6年度全国学力・学習状況調査報告書中学校数学(国立教育政策研究所)
  • 「新しい数学1」(東京書籍)
  • Dマークコンテンツ1年生 https://tsho.jp/03j/m1/

【佐藤寿仁先生 略歴】
岩手県公立中学校で11年、岩手大学教育学部附属中学校で6年教職を務め、岩手県岩泉町教育委員会指導主事、国立教育政策研究所学力調査官・教育課程調査官を経て、令和3年度より岩手大学教育学部准教授。学校教育の充実や現職教員の職業能力開発の支援から、全国調査など国の教育のアセスメントに関わり、これからの教育について幅広く研究を進めている。

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