特集記事(高校)

高校

2025.01.16

【#5】4つの数から四則演算だけで10をつくる~鉄道会社の贈り物~

 30年くらい前まで,電車に乗るときには固い長方形の切符が必要でした。改札を通るときに,駅員さんにM字の刻みを入れてもらいました。駅員さんは,刻みを入れるための特殊な鋏を,タンタカタンタカ…と小気味よく鳴らして,それが朝の通過儀礼のようになっていました。
 今はICカードやタッチ決済のピッ。残高が足りないと,赤く光ってピピピ。いったい誰に許可を得ているのか,顔が見えなくなってしまいました。

 切符はこんな雰囲気のものでした。数字,レイアウトなどいろいろ本物と違います。

【#5】4つの数から四則演算だけで10をつくる~鉄道会社の贈り物~01

 暇ですから,4つの数を1回ずつ使って四則演算だけで10をつくる遊びをしていました。

【#5】4つの数から四則演算だけで10をつくる~鉄道会社の贈り物~02

 例えば,2874は,2,8,7,4の4つの数が並んでいると見なして

\(7-2=5\) → \(\frac{8}{4}=2\) → \(5 \times 2=10\)

のようにして10にできます。順番は入れ替えてもよいです。
 また,途中で与えられた数以外の数も登場しますが,それもOKとします。括弧を使えば,途中で登場した数を見かけ上使わないで計算を進めることができますので。

\((7-2)\times \frac{8}{4}=10\)

 友達や家族と一緒に頭の中だけで考えて競い合います。誰かに先を越されたら,くやしいので,別解を考えます。暇ですから。
 2874だったら

\(7-4=3\) → \(8-3=5\) → \(5 \times 2=10\)

これは,\((8-7+4)\times 2=10\) と等しいです。

【問1】1,4,3,7から10をつくりましょう。
【#5】4つの数から四則演算だけで10をつくる~鉄道会社の贈り物~03

【答】

\(7-4=3\) → \(3 \times 3=9\) → \(9 + 1=10\)

⇔ \((7-4) \times 3+1=10\)

【問2】3,7,4,8から10をつくりましょう。
【#5】4つの数から四則演算だけで10をつくる~鉄道会社の贈り物~04

【答】途中計算も全部整数の範囲に限定すると無理そうです。
 でも,40ならつくれます。

\(3\times4=12\) → \(12-7=5\) → \(5 \times 8=40\)

⇔ \((3\times 4-7)\times 8 =40\)

だから,両辺を4で割ると

\(\left( 3- \frac{7}{4}\right)\times 8=10\)

となって,4つの数を1回ずつ使って四則演算だけで10をつくることができています。
 しかし,はじめから

\(3- \frac{7}{4}=\frac{12-7}{4}=\frac{5}{4}\)

は思いつかないですよね。

答の深堀り

 10をつくることが無理そうだと思ったら,例えば 3,7,4,8の場合なら30,70, 40,80をつくることを目標に切り替えて,最後に3,7,4,8で割れば,途中の有理数の計算が自然に導出できそうです。

〔パターン1〕一般には,\(a,b,c,d\) に対して

\((a \times b -c)\times d=10 \times b\)

の形にできたら,両辺を \(b\) で割って

\(\left(a- \frac{c}{b}\right)\times d=10\)

とできます。

【パターン1の問】1,2,3,4 から10をつくりましょう。ただし,
(\(6+4\) をつくる)\(1+2+3+4=10\) や \(1 \times 2 \times 3 + 4 =10\)
(\(12-2\) をつくる)\(1 \times 3 \times 4-2 =10\)
など以外の〔パターン1〕方式の別解を考えてください。

【答】右辺が \(10 \times 2 =10\) のときできます。

\((3 \times 2-1) \times 4 =10 \times 2\)

の両辺を2で割ると

\(3- \frac{1}{2}\times 4=10\)

【問3】2,4,9,5から10をつくりましょう。
【#5】4つの数から四則演算だけで10をつくる~鉄道会社の贈り物~05

【答】\(9-5=4\) → \(2+4+4=10\)
だから,\(2+4+9-5=10\) ですね。

 このとき,【答の深掘り】の〔パターン1〕と別のタイプの有理数を経由する別解ができます。

\(5 \times 2 =10 \times 1\)

\(9-4\times2=1\)

から

\(5 \times 2=10 \times (9-4 \times 2)\)

がわかります。両辺を2で割って

\(5=10\times \left( \frac{9}{2}-4 \right )\)

となります。これより

\(\dfrac{5}{\frac{9}{2}-4}=10\)

を得ます。

〔パターン2〕一般には,\(a,b,c,d\) に対して

(1)\(a \times b =10 \times (c-d \times b)\)
(2)\(a \times b =10 \times (c\times b-d)\)

の形にできたら,両辺を \(b\) で割って,さらに10の係数で割って

(1)\(\dfrac{a}{\frac{c}{b}-d}=10\)

(2)\(\dfrac{a}{c-\frac{d}{b}}=10\)

とできます。

【例】〔パターン2〕で,右辺が \(10 \times 1 \) となるタイプは12個つくれます。

\((a,b)=(5,2)\)

\(5 \times 2 = 10 \times 1, \ 1=(c-d \times 2)\) → \((c,d)=(3,1),(5,2),(7,3),(9,4)\)

\(5 \times 2 = 10 \times 1, \ 1=(c \times 2-d)\) → \((c,d)=(1,1),(2,3),(3,5),(4,7),(5,9)\)

\((a,b)=(2,5)\)

\(2 \times 5 = 10 \times 1, \ 1=(c-d \times 5)\) → \((c,d)=(6,1)\)

\(2 \times 5 = 10 \times 1, \ 1=(c \times 5)-d\) → \((c,d)=(1,4),(2,9)\)

その他の例〔パターン2〕で,右辺が \(10 \times 1 \) 以外になるタイプは

\((a,b)=(5,4)\)

\(5 \times 4 =10 \times 2, \ 2=(c-d \times 4)\)

\(5 \times 4 =10 \times 2, \ 2=(c \times 4-d)\)

の他に

\(4 \times 5 =10 \times 2\)

\(6 \times 5 =10 \times 3\)

\(5 \times 6 =10 \times 3\)

\(8 \times 5 =10 \times 4\)

\(5 \times 8 =10 \times 4\)

などが考えられます。

疑問途中計算において,次のそれぞれの場合のための4つの数の条件はなんだろう?
(1)整数の範囲だけで10がつくれる場合
(2)有理数を使わないと10がつくれない場合
(3)(1)と(2)の両方があり得る場合

【問4】1,1,5,9から10をつくりましょう。
【#5】4つの数から四則演算だけで10をつくる~鉄道会社の贈り物~06

【答】たぶん無理。

疑問の深掘り

 そもそも10をつくれるための4つの数の条件はなんだろう?
 さらに,10がつくれた場合,本質的に異なる別解をつくることができるための条件はなんだろう?

鉄道会社の贈り物

 いまのJRは昭和の時代には国鉄と呼ばれていました。日本国有鉄道の略です。1987年にJR○○などに分割民営化されて現在の形の原型ができました。高校生のときでした。駅員さんたちが,普通(無愛想?)から笑顔に変わったのを記憶しています。がんばっている感があって最初は奇妙に感じました。いまでは当たり前ですが。電電公社からNTTに,専売公社がJTに民営化されたのもこのあたりです。郵政公社がJPになったのは,もっと記憶に新しく20年後の2007年です。小泉内閣のときのいわゆる郵政解散,郵政民営化によるものでした。民営化すると,国に守られていないものだから某ハンバーガーショップの笑顔0円のように,笑顔で対応しないといけないと思うのでしょうか。どこも一緒で面白い現象です。

 話が逸れましたが,上で切符といっていたのは,硬券と呼ばれる乗車券です。現在は,ICカードやタッチ決済で改札を通過可能な駅がかなり増えました。冒頭でも述べましたが,鋏で硬券に刻みを入れられると,入構許可が人によってなされたのがはっきりとわかって,妙な安心感がありました。

 車内では,本や漫画を読む以外は,基本暇でした。暇は重要です。暇だから10にする遊びができたし,頭を使っていました。スマホやら暇つぶしの道具ができると,どうしてもそれに流されます。使えない状況じゃないと,わざわざ数字遊びはしないでしょう。その点,高速道路の渋滞にはまると,少なくともドライバーにとっては,数字遊びができる状況になります。スマホは見られませんので。車のナンバーから,10をつくってみてください。暇ですから。(考えすぎて,追突しないように注意して。)

【矢崎成俊(やざき・しげとし)先生 プロフィール】
1970年東京生まれ。早稲田大学理工学部数学科卒業。東京大学大学院数理科学研究科数理科学専攻博士課程修了。現在,明治大学理工学部数学科専任教授。博士(数理科学)。専門は応用数理,特に界面現象の数理解析。実験を採り入れた数学の講義で定評がある。
著書: 『実験数学読本』①・②・③ (日本評論社),『次元解析入門』,『界面現象と曲線の微積分』,『動く曲線の数値計算』(以上共立出版),『大学数学の教則』(ちくま学芸文庫),『公式は覚えないといけないの?』(ちくまプリマー新書),他。
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