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中学校

2022.09.12

【math connect】トークセッション:子供が主役の学びをデザインする Vol.5

【math connect】トークセッション:子供が主役の学びをデザインする Vol.5 05

GIGAスクール構想により、様々なアプリケーションの使用できるICT機器が、先生方や子どもたちに行き渡っています。授業はICT機器の利用でどのように変わっていくのでしょうか。今回は、ICT機器を利用した学びのデザインについてお二人の先生にお話しいただきます。

―教科書2年p.107~109は、平行線の間の角の大きさについて考える深い学びのページです。p.109にはDマークがあり、シミュレーションのコンテンツを使った学習ができます。このコンテンツをご覧になった印象はいかがですか。

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小岩 よくできていますね。点の位置や、直線の位置・傾きなどの条件を自由に変えることができます。

佐藤 図形をいろいろに動かして、実験することができそうです。

小岩 作図ソフトがなくても大丈夫ですね。

―このDマークコンテンツを使って指導することを考えたときに、どのようなことに気をつければよいでしょうか。

小岩  目的をもって、図形を動かすということです。図形の深い学びにおいて「(点や直線などの図形を)動かす」といったときに「目的」が何かあるはずですよね。たとえば、p.109の❼では「点Pの位置を変えたら \(\angle x\) の大きさはどうなるのかな」という素朴な問いがあると思います。この問いでも、「点Pを動かしたときに \(\angle x\) の大きさがどうなるのか」という目的をもって図形を動かすことができます。そして、\(\angle x\) の大きさに注目して図形を動かすうちに、\(\angle x\) の大きさが、いつでも2つの角の和になっていることに生徒が気づきます。❼の右側にある最初の問題(p.107のQ)の図でいうと、60°と50°の2つの角の和ですよね。

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 そこから「じゃあ、点Pがどこにあっても、\(\angle x\) の大きさはもともと60°と50°だった2つの角の和になっているのかな」という問いが生まれて、「じゃあ、点Pを動かしてみよう」という流れになるわけです。私なら、このDマークコンテンツの機能である「角度を表示」を使って、\(\angle x\) の大きさを先に見せてしまいます。

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 直線 \(l\) 、\(m\) の内側での \(\angle x\) に関する性質が分かったら、「じゃあ、点Pを直線 \(l\) 、\(m\) の外側に動かしたときにはどうなるのかな」という問いが生まれる。そして、どうなるのかを調べるという「目的」をもって、外側に動かして調べる。そういった「目的」をもって図形を動かすことで、性質を調べたり説明したりしないと、ただ動かしているだけになってしまいます。

佐藤 p.109の➐にある文言は、意外と書いてあるようで書かれていませんよね。上手く示されていると思います。
 たとえば、「最初の問題をもとにして」「条件を変えて」とありますが、それぞれ「最初の問題とは何か」「何のために条件を変えるのか」がはっきりと書かれていないですよね。実は、最初の問題の確認や、条件を変えることの目的を伝えることに「教師の出番」があると思っています。ここでの教師が行う子どもたちとのやりとりは、非常に重要になると考えられます。子どもの学びがぐっと深まるときだからです。
 ここでの子どもたちとのやりとりには、「準備」が必要だと考えています。具体的には、小岩先生のお話のなかにあった「点Pがどこにあっても、\(\angle x\) の大きさはもともと60°と50°だった2つの角の和になっているのかな」という問いですよね。そういった先生の問いをもとに進めるから、シミュレーションによる学習が活きてくるのではないかと思います。

―教科書2年p.108のように、今までは「黒板」に考えを並べてかいて、共有していました。最近ではアプリケーションを使って、全員の考えを一覧で見ることができますよね。

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小岩 最近印象に残った話として、「アプリケーションを使ってクラス全員の解決を集めて、子どもたちと一覧で見ることを共有と呼んでよいか」というものがありました。
 クラス全員の解決を集めて子どもたちと一覧で見ることが、共有の仕方としてあるのかもしれません。ただ、私は多様な解決が授業で出てきたときには、学ばせたいことに迫れるような解決をいくつか選ぶようにしています。授業のねらいを踏まえて解決を選び、「比較検討」することではじめて、学ばせたいことにつながる共通点が出てくるからです。

佐藤 「子どもの解決の方法を比較したり検討したりすると、学ばせたい数学に迫れるか」が、やはり肝になりますよね。その肝を外してしまうと、結局子どもたちは何を考えればよいかも分からなくなってしまうし、この時間で何をやっているのだろうということにつながってしまうのではと考えます。
 パソコンやタブレットで使用するアプリケーションが発達し、クラス全員の数学的な解決の表現を集めて、それを画面上で一覧になったものを子どもたちが見ることができるようになりました。ただ、このことを「考えの共有」と呼ぶことは難しいと考えています。「共有」というものは、解決を集めて並べてみることから「始まる」のだと思います。
 p.107からp.109の内容を取り上げた授業でよく見るのは、子どもが作図ソフトで作図したものを画像として保存し、先生へその画像を送るという場面です。このことで先生も子どもも満足しているように感じます。先生からは、その次の発問がないのですよね。「こんなにたくさん集まったね!」と紹介するだけで、授業が終わってしまうのです。
 「比較・検討する」や「練り上げる」といった活動を、日本の数学教育ではとても大事にしてきました。だからこそ、そういう脈々と受け継いできた「授業の流れや活動」を、道具が便利になっても失わないようにしていかなければならないといつも思っています。単に双方向のツールを使うことで、教室が「授業をしている(授業に参加している)」という雰囲気になってしまっているのではないでしょうか。

ー以前、子どもたちの色々な考えを集めて授業をするために、小さいホワイトボードが普及した時期がありました。

小岩 理科や社会の授業でみたことがあります。理科や社会の授業では、グループで意見をまとめることがあるので、使っていたのだと思います。

佐藤 「方法」は違いますが「目的」は同じですよね。要するに、様々な考え方に触れながら「より良いものは何か」や、「数学的に正しいものは何か」を議論する時間が大事で、色々と便利なものが出てくると、それらを見落としがちになってしまうと思います。

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―前回と今回のお話を伺っていると、ICT機器はまだ「文房具」になりきれていないのではないかと感じます。

佐藤 便利なツールを意図もなく使用し、ただ使うことのみに振り回されてしまうと、今まで大切にしてきた数学的活動が何かを忘れてしまう可能性があります。他の教科の授業もそうだと思うのですが、「子どもたちが考える」ことを大切にしていきたいですよね。

小岩 そうですね。現在GIGAスクール構想の関係で、「タブレットの使用ありき」になっている現場もあると思います。
 教科書2年p.107~109の授業において、タブレットでDマークコンテンツを使うと、子どもたちがより多面的に、深く考えることができ、見方・考え方をより豊かに働かせることができるから、タブレットを使う。本来、こういう論理でタブレットを授業に持ち込むのが良いですよね。シミュレーションのコンテンツなど、タブレットを使うと「何か面白いことができそうだから」だけでは「必要感」がないですよね。
 たとえば子どもたちが考えるなかで「この図を手できれいにかいたり、いろいろな場合の図をかいて調べたりしたいけど、かくのに手間がかかって考えることに集中できないから、図をかくことはタブレットの力を借りる」ということだと思います。「タブレットの使用ありき」ではなく、「子どもの思考ありき」で、子どもの思考を補助したり後押ししたりするための道具としてタブレットが位置づくと、ちゃんと「文房具」になるのではないかと考えています。

佐藤 現場の先生方に大事にしてほしいと思うこととしては、子どもがどんな数学に取り組もうとしていて、教師はどんな数学を子どもに学んでほしいのかという期待が「先にある」ということです。その学びを少しでも充実させたいと考え、授業において何を使えばよいかとなったときに、選択肢の一つとしてタブレットがあると思います。得てして、このことが逆転しがちですよね。これはいつの時代もそうなのではないかと私は考えています。何か便利なものがあれば、どういうときに使うと効果的で便利かはさておき、まずは使いたくなってしまうものですね。
 私が若かった頃、学会や実践研究会などでの発表を通して、作図をすることができるソフトを初めて知り、興奮した記憶があります。まず使ってみたいので、使うところから生徒に伝えてしまう。でも、これが生徒にとって本当によい学びになっていないことに気づいたときに、何が抜け落ちているのかを考えました。「子ども」が抜けているのです。教育において、学びの主役である子どもが抜け落ちてしまってはならないのです。
 だから「子どもありき」で考える。子どもたちにどのような数学の世界を見せようとしているのか、授業でどのような数学の学びを進めようとしているのかを考え、指導者は使用するツールを見定め、判断する必要があると思います。黒板やノートも、そういったツールの1つですよね。

小岩 タブレットは、タップするとグラフや図形、ヒストグラムといった様々な「結果」を出してくれます。本当はその結果がどういう考えにもとづいて得られたものなのかが大事なのですが、出てきた結果に「考え」がないと形骸化してしまいますよね。
 それと同様でノートについても、何も考えずに書いていたらただの「記録」で、本当は子どもが色々考えながら書くからこそ、ノートに書くことが大事なのだと思います。黒板についても、子どもにこういうことを考えさせたいからこれを書こうという話が先にあって、そこに電子黒板を使うともっと良くなるのであれば、それを積極的に使うべきですよね。子どもたちの考えをより豊かにするための道具として、ICT機器と付き合っていくことが大切だと思います。

対談を振り返って

子どもが主役の学びをデザインするときには、次のことを大切にしたいと思いました。

〇図形のシミュレーションのコンテンツでは、目的をもって図形を動かすようにする。

〇全員の考えを見られることで満足せず、「どういう考えを比較検討すると、学ばせたい数学に迫れるか」を考えるようにする。

〇子どもたちの考えをより豊かにするための道具として、ICT機器と付き合っていくことが大切である。

Profile

佐藤 寿仁  Toshihito Sato
岩手県公立中学校で11 年、岩手大学教育学部附属中学校で6 年教職を務め、岩手県岩泉町教育委員会指導主事、国立教育政策研究所学力調査官・教育課程調査官を経て、令和3年度より岩手大学教育学部准教授。

小岩 大  Dai Koiwa
愛知県公立中学校で4年、東京学芸大学附属竹早中学校で10年以上教職を務める(現職)。生徒が数学をつくるプロセスを重視した授業づくりに力を注ぎ、各地で飛び込み授業や講演などを行っている。

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